出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また,伊藤大輔は,河部五郎主演《下郎》(1927)で封建的な階級制度を批判して〈傾向映画〉の先駆となるとともに,大河内伝次郎主演《新版大岡政談》(1928)で型破りのヒーロー・丹下左膳を生み出した。一方,大スターが次々に独立していったマキノ映画では,山上伊太郎脚本,マキノ正博(雅弘,雅裕)監督のコンビで,南光明主演《蹴合鶏》《崇禅寺馬場》(ともに1928),南光明,根岸東一郎,谷崎十郎主演《浪人街》三部作(1928‐29),河津清三郎主演《首の座》(1929)と,新鮮な感覚に満ちた時代劇の傑作がつくられた。逆境にある人間の反逆をチャンバラ活劇として描く点では,寿々喜多呂九平から伊藤大輔へ,そして山上・マキノのコンビへと連続していて,その過程で虚無的な反逆精神は一種の社会批判にまで高まったといえる。…
…当時(第一話)まだ20歳の監督マキノ正博(1908‐93。のち雅弘,雅裕),また牧野省三に認められて《悪魔の星の下に》(1927)のオリジナルシナリオを書いて〈悪魔派〉などとよばれていた23歳の脚本家山上伊太郎,25歳のカメラマン三木稔(のち滋人と改名)のいずれも20代の若きトリオによるマキノ・プロダクション作品である。安価なヒロイズムを支えにしたチャンバラ時代劇を否定し,スター中心主義の伝統的なスタイルを一変して,貧窮と怠惰の長屋暮しをつづける失業武士たち,社会から疎外されて敗北と挫折の道しか残されていない集団を描いた画期的な時代劇作品であり,そこにはニヒリズムの色が濃いとはいえ,やがて一連の〈傾向映画〉(プロレタリア映画)をつらぬく表現主題ともなる抵抗の姿勢のきざしが見える作品でもある。…
※「山上伊太郎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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