日本大百科全書(ニッポニカ) 「アクリル酸エステル」の意味・わかりやすい解説
アクリル酸エステル
あくりるさんえすてる
acrylate ester
アクリル酸とアルコール(またはフェノール)から生成するエステルの総称。一般式CH2=CHCOORで示される。実験室的には、濃硫酸を触媒としてアクリル酸とアルコールを反応させると得られる。
アクリル酸メチルCH2=CHCOOCH3は沸点79.6~80.3℃、無色で不快臭のある液体。工業的にもっとも重要なアクリル酸エステルであり、プロピレンの接触酸化により製造したアクリル酸をメタノールによりエステル化する製造法で合成されている。この方法ではプロピレン675キログラムとメタノール400キログラムから1トンのアクリル酸メチルが得られる。
炭素数の多い高級アルコールのエステルは、アクリル酸メチルからエステル交換反応を利用して合成する。メチルエステルからヘキサデシルエステルまでの同族体は、いずれも常温で液体である。炭素数の少ない低級アルコールのエステルは不快臭をもち、毒性が強いので、吸入、皮膚への付着を避けなければならない。過酸化物、光、熱などにより重合をおこしやすいうえ、重合鎖の間の架橋をおこすのでアクリル樹脂の原料となる。工業的にはメチルエステルのほかエチル、ブチル、2-エチルヘキシルエステルが使われ、おもな用途はアクリル繊維の改質、塗料、接着剤などで、いずれも共重合体が用いられている。
[廣田 穰]