アンジェの黙示録(読み)アンジェのもくしろく(英語表記)Apocalypse d'Angers

改訂新版 世界大百科事典 「アンジェの黙示録」の意味・わかりやすい解説

アンジェの黙示録 (アンジェのもくしろく)
Apocalypse d'Angers

アンジェ城付属美術館所蔵の,黙示録主題とする7枚一組のタピスリーで,現存する西欧中世の作品中もっとも古く,最大の規模を誇る。アンジュー公ルイ(フランス国王シャルル5世の弟)の注文により,国王の宮廷画家ボンドルJean Bondol(1368-81活動)が下絵を描き,1373-80年にニコラ・バタイユの工房で織られた。1枚は約5m×約20mの大きさをもち,黙示録の物語が上下2段に7場面ずつ,計14場面表されている(本来90場面あったといわれるが,現存するのは約70場面のみ。とくに2,3枚目は断片のみ残り,その構成,大きさは不明)。左端には縦長の画面が付け加えられ,天蓋の下に書物を読む老人が座す(4人のみ現存)。上縁には天使の舞う空,下縁には草花の咲く大地が縁飾としてついていた。黙示録の諸場面は赤地と青地を交互に配し,単純で力強い色彩効果をもつ。また巧みな描線と明快な構図によって,織物としても絵画としてもすぐれた価値を有し,国際ゴシック様式の代表作。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアンジェの黙示録の言及

【国際ゴシック様式】より

…これは,イタリア,ネーデルラント,ドイツの都市で経済力を得,教会,王侯と並んで芸術のパトロンとして成長した富裕な市民層の日常感覚の反映を示すものといえる。 国際ゴシック様式が最も典型的にみとめられるのは,フランス王侯の宮廷で,イタリア絵画の革新の成果と接触しながら制作したネーデルラント出身の工人たち,アンジュー公のためにタピスリー(いわゆる《アンジェの黙示録》)の下絵を制作したJ.バンドル,ブルゴーニュ公に仕えた板絵画家J.マルーエル,H.ベルショーズ,ベリー公に仕えた彫刻家A.ボーヌブー,写本装飾画家J.ド・エダン,ランブール兄弟など,〈フランコ・フラマン派〉と称せられる人々の作品である。彼らはギルドの束縛をはなれ,王侯の従僕として祝祭の装置から家具調度の修理まで美術の各分野にわたって幅広く活動している。…

【タピスリー】より

…そのうち4分の3は紋章や幾何学文などの比較的単純なものであったが,残りの4分の1には歴史・叙事詩などからとった主題や宗教主題の豪華絢爛(けんらん)たるものが含まれていた。しかし現存するゴシック最古の作品は《アンジェの黙示録》(1373‐80。アンジェ城付属美術館)で,これはまた現存するもっとも大規模な作品でもある。…

【バタイユ】より

…1373‐1400年ころパリで工房を主宰し,国王の宮廷のために多くのタピスリー(現存せず)を織り上げたことが知られている。代表作は王弟アンジュー公ルイのために1373年ころから制作した《アンジェの黙示録》(アンジェ城付属美術館)で,下絵にない植物や文様を織地に加えるなど独自の工夫を凝らし,織りの技術も精巧をきわめている。様式的な類似から《9人の勇士》(ニューヨーク,クロイスターズ)も彼の工房の制作とみなされている。…

※「アンジェの黙示録」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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