ドイツ中世盛期の宮廷詩人。ニュルンベルク南西のエッシェンバハ(現ウォルフラムス・エッシェンバハ)出身。代表作の叙事詩『パルチバル』はフランスのクレチアン・ド・トロアの『ペルスバルあるいは聖杯の物語』を主要原拠に、愚直な少年がアーサー王の円卓の騎士を経て聖杯王になるまでを、その宗教的体験を中心に描き、主人公の聖杯獲得を世俗的騎士世界とキリスト教信仰の世界との調和の象徴として表現した。叙事詩ではほかにパルチバルの従姉(いとこ)ジグーネとシーオナトゥランダーの恋を叙情的に描いた小品『ティトゥレル』と、フランスの武勲詩『アリスカンの戦い』を主要原拠にした十字軍文学『ウィレハルム』がある。後者では異教徒の王妃を妻にした南フランスの辺境伯ウィレハルムと、王妃を取り戻そうとする異教徒の軍勢との戦いを描く。集団戦闘の描写の迫真性と異教徒に対する寛容の精神の訴えが特色。叙情詩は8編。うち5編は後朝(きぬぎぬ)の歌。朝を告げる夜警の登場と奇抜な比喩(ひゆ)の使用によって、別離を前にした男女の愛の燃焼を描き、ミンネザング(恋愛叙情詩)に新境地を開いた。
[小栗友一]
『相良守峯著『ドイツ中世叙事詩研究』(1948・郁文堂)』
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