改訂新版 世界大百科事典 「オトラボトカ」の意味・わかりやすい解説
オトラボトカ
otrabotka
農奴解放後のロシア中央部に広く普及した地主直営農場での農民の低報酬労働。〈雇役〉という訳語は不適当で〈債務返済労働〉が実体に近い。農民は土地不足,経済的困窮,重税負担などのため,地主から借地や金銭・穀物の前借りをしたとき,その高い借地料や高い利子つき返済金を支払うために,しばしばこのオトラボトカを行ったのである。農具・役畜持参の請負耕作(この場合報酬は請負面積当り)や単なる日雇いなど形態は多種多様だが,借地した面積の2倍の広さの地主直営農場内割当地で耕起から収穫までの全作業請負を行ってその労働報酬を借地料支払いにあてるという〈オトラボトカ借地〉も有名である。これは外見上封建的賦役(労働地代)に似ており,これをオトラボトカ・システムの典型とみて,〈オトラボトカ・システムは賦役経済の直接の遺物〉(レーニン)といわれたが,この考えは一面的である。〈オトラボトカ借地〉は,農奴解放後のロシア資本主義社会成立期農村での高借地料と低労働報酬の広範な普及を前提とするその両者の相殺形態であるにすぎないからである。低労働報酬は農民の出稼ぎ労働を通じてロシア資本主義を支える低賃金につながっていたから,オトラボトカ・システム(高借地料と低労働報酬との相互規定的な関連)はむしろロシア資本主義再生産構造の不可欠の要素であって,封建的なものとはいい難い。1905年革命期農民運動はオトラボトカ・システムに対決した。
執筆者:日南田 静真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報