実体(読み)ジッテイ

デジタル大辞泉 「実体」の意味・読み・例文・類語

じっ‐てい【実体】

[名・形動]まじめで正直なこと。また、そのさま。実直。
「見たところ―な感心な青年わかものであった」〈独歩正直者
[類語]実直律儀謹直謹厳正直誠実真率しんそつ善良朴直真っ正直馬鹿正直プレーン単純純粋シンプル純然純一至純純乎じゅんこ純正純良単一純化質素簡素つましい地味つづまやかつつましいつつましやか質実清貧素朴純朴朴訥ぼくとつ質朴清楚篤実生一本まじめ生まじめ大まじめ真摯愚直

じっ‐たい【実体】

そのものの本当の姿。実質。正体。「実体のない想像上の人物」
《〈ギリシャūsia/〈ラテンsubstantia/〈英〉substance》多様に変化してゆくものの根底にある持続的、自己同一的なもの。アリストテレスでは具体的個物、デカルトではそれ自身によって存在し、その存在のために他のなにものも必要としないもの、カントでは現象を認識するための範疇はんちゅうにすぎないとされた。→属性
[類語]本質本体内容中身実質内実じつ

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精選版 日本国語大辞典 「実体」の意味・読み・例文・類語

じっ‐たい【実体】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 事物の本体。正体。実質。転じて、真実の深い道理。真理。
    1. [初出の実例]「本門本自不水中月最初但見一天月也、故知実体実体」(出典:三十四箇事書(1200頃))
  3. ( [英語] substance の訳語 ) 哲学で、事物のもつ性質、状態、作用、関係などの根底に横たわってこれを根拠づけながら、同一性を保って自存するもの。観念論では、変化する現象の中で変わらない精神を、唯物論では、物質を意味し、さらに不変の(または可変の)力と解されることもある。ギリシア哲学スコラ哲学、デカルト、スピノザの哲学の中心課題であり、また基本概念であった。
    1. [初出の実例]「かく月とか風とか、名さし挙けて極とする物を、実体〔 substance 〕と云ひ、何にまれ、其実体に附きたりと、考ふる者を、属性〔 attribute 〕と云ふ」(出典:致知啓蒙(1874)〈西周〉上)
  4. ( 形動 ) =じってい(実体)
    1. [初出の実例]「家の治る事、親虎安支配の時より、格別実体(ジッタイ)にして繁昌尚盛なり」(出典:浮世草子・風流曲三味線(1706)四)

じっ‐てい【実体】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 ) ( 「てい」は「体」の漢音 ) まじめで正直なこと。また、そのさま。実直。りちぎ。じったい。
    1. [初出の実例]「件男在中門隠方之故也、素実体之者也」(出典:玉葉和歌集‐安元二年(1176)二月五日)
    2. 「それを実体(ジッテイ)なる所帯になせば」(出典:浮世草子・日本永代蔵(1688)二)
    3. [その他の文献]〔陸機撻‐浮雲賦〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「実体」の意味・わかりやすい解説

実体
じったい
substance 英語
substance フランス語
Substanz ドイツ語

哲学の用語で、すべての存在の基本に、これを支えるものとして考えられる基本存在のこと。そのギリシア原語ウーシアーūsiāは「在(あ)る」を意味する動詞エイナイeinaiから派生した語で、「まさに在るもの(真実在)」を意味する。プラトンでは、転変する可視世界の根拠にある恒常・同一の不可視のイデアがウーシアーと考えられる。しかし、アリストテレスでは、「在る」のもつもろもろの意味の種別であるカテゴリーの第一がウーシアーである。

 ウーシアーは他のものから離れてそれだけでも在りうる自存存在であるが、他のカテゴリーはウーシアーに基づいて在る依存存在である。たとえば、性質、大きさ、状況はそれぞれ「何か在るもの」の性質、大きさなどとして、初めて在る。これに対し、性質や大きさが帰属している当のそのもの自身、たとえば、「この在る人」はウーシアーである。それゆえ、ウーシアー(実体)は、種々の述語がそれについて述べられている第一の主語、種々の属性がそれに帰属する「基体(ヒポケイメノンhypokeimenon)」でもある。こうして、アリストテレスでは、ウーシアーは日常言語において「それが……」といわれる主語的なものを構成する存在そのものであり、感覚や現象から遠いものではなく、感覚や現象を構成する基本の自存存在である。

 その後、ラテン語では、ウーシアーにあたるエセンティアessentiaの語は「本質」を意味するものとなりヒポケイメノンにあたるスブスタンティアsubstantiaまたはスブストラトゥムsubstratumの語がウーシアーの訳語として用いられた。そこから、これを受け継いだ近代哲学では、ウーシアー(英語ではsubstance)の概念はやや錯雑な諸義を内含するものとなった。日本語の「実体」はsubstanceの訳語である。近代哲学における実体の問題は、近代経験科学の成立によってアリストテレスのカテゴリー論の正否が問われたときに生じたものであり、その存在論的、認識論的な意義づけは、合理論においても経験論においても重要な課題となる。

[加藤信朗]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「実体」の意味・わかりやすい解説

実体
じったい
ousia; substantia

アリストテレスは実体を主語となって述語とならぬものと定義し,個体を本来的な第一実体,それぞれの個体の属する種や類を第二実体とし,実体の特性として単一でありながら相反する多くの性質を受入れうることをあげた。 substantiaの語はセネカによって用いられて以後ギリシア語の ousia同様,存在というぐらいの広い意味で普及したが,哲学的にはスコラ哲学はアリストテレスの概念を継承した。近世の実体概念はデカルトによって樹立された。すなわち彼は実体をほかのものに依存せず自己自身によって存在するものと定義し,実体を基体とみるよりむしろ動詞 subsistere (存続する) に関係づけて自存とみた。彼は思惟する精神と延長する物質の二実体を認めはしたが,十全にその定義に適合するのは神のみであると考えていた。これを徹底して神を唯一の実体としたのはスピノザである。これに反してライプニッツは精神を実体の範例として単子による多元論を主張した。経験論では,ロックが実体は知覚された諸性質の主体として想定されたものにすぎないとし,バークリーは物質的実体を否定し,さらにヒュームは精神を一束の観念として心的実体をも否定した。カントはわれわれの変化の知覚の根底に持続を想定する悟性の先天的形式が実体概念であるとした。この間に原子論の方位をとった近代自然科学に実体概念が影響を与えたことも銘記されねばならない。現代では実体は必ずしも存在論の中心概念ではなくなっている。その反面,たとえばラッセルの論理的原子はアリストテレスの実体の論理学的定義に妥当する面がある (彼は永続するものという性格を嫌ってこれを実体とは呼ばない) 。

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普及版 字通 「実体」の読み・字形・画数・意味

【実体】じつたい

具体的なもの。実際の形体。晋・陸機〔浮雲の賦〕輕象(えんしやう)るも、實體の眞形無し。厥(そ)の本初を原(たづ)ぬるに、沈混(こんへい)す。

字通「実」の項目を見る

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改訂新版 世界大百科事典 「実体」の意味・わかりやすい解説

実体 (じったい)

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「実体」の解説

実体

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世界大百科事典(旧版)内の実体の言及

【関係】より

…哲学用語。伝統的なヨーロッパの存在観においては,独立自存する〈実体〉なるものがまずあって,実体どうしの間に,第二次的に〈関係〉が成立するものと考えられてきた。これに対して,〈関係〉こそが第一次的な存在であり,いわゆる実体は〈関係の結節〉ともいうべきものにすぎないと考える立場が,仏教の縁起観など,古くから存在したが,現代においてはこの〈関係主義〉的存在観が優勢になりつつある。…

【西洋哲学】より

…これももともとアリストテレスの〈エネルゲイア〉の概念の根底に形而上学的思考様式が存していたことからの必然的帰結と見られる。
【実体と属性】
 西洋哲学の基本的概念群の一つに〈実体‐属性〉という対概念があるが,これもまたアリストテレス哲学に源を発する。もっとも,通常〈実体〉と訳されているアリストテレスの用語〈ウシアousia〉は,それが〈ある〉〈存在する〉という意味の動詞〈エイナイeinai〉の女性分詞形〈ウサousa〉に由来し,日常語としては〈現に眼前にある不動産・資産〉を意味するということからも知られるように,広く〈存在〉を意味する言葉であり(《形而上学》第7巻第3章),これがsubstantia(下に立つもの=実体)というラテン語に訳されたのは,事物の第一の存在(ウシア)が〈ヒュポケイメノンhypokeimenōn(下に横たわるもの=基体)〉としての存在にあると考えられたからである(《形而上学》同上)。…

【相対性理論】より

…【藤井 保憲】
【哲学的意義】
 哲学との関連で,相対性理論のもつ意義およびそれのもたらした影響について付言しておこう。まず,存在論に即していえば,相対性理論は〈関係主義的(非実体主義的)〉な存在観を促すゆえんとなった。哲学においては,19世紀のある時期からヨーロッパにあってすらさすがに関係主義的な存在観が登場するようになっていたが,科学的世界観の拠点をなす物理学においては,古典物理学的実体主義が牢固(ろうこ)として支配していたため,非実体主義=関係主義の貫徹が阻まれていた。…

【もの(物)】より

…このとらえ方は,ヒュポケイメノンが命題の〈主語〉をも意味するところから知られるように,命題の〈主語‐述語〉という構造をモデルに構想されたものである。このヒュポケイメノンが,ラテン語でも〈下に置かれたもの〉という言葉のつくりをそのまま写してsubstantiaないしsubjectumと,シュンベベコスがaccidensと訳され,物をもろもろの特性の基体・実体とみるこの考え方も,中世のスコラ哲学やさらには近代哲学にも継承される。(4)近代のロックなどにもこの種の考え方は残っており,彼は実体そのものに対しては不可知論的立場をとるが,それでも実体としての物体そのもののうちに実在する第一性質primary qualities(延長,形態,運動など)と,物体によってわれわれの心のうちに生ぜしめられる第二性質secondary qualities(色,音,味,香など)を区別したのに対し,経験論の立場を徹底するD.ヒュームは,経験に与えられることのない実体の想定を否認し,したがって実体を想定してのみ意味をもつ第一性質,第二性質の区別をも否定した。…

【体】より

…このとき,abならば-a<-bである。 体Lにおいて,-1が平方元の和に決してならないとき,いいかえれば,どのような自然数nを取っても,x12x22+……+xn2+1=0がKの中で解をもたないとき,Lは実体であるという。順序体は実体であり,逆に実体に適当な順序を与えて順序体にすることができる。…

※「実体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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