…そこには舞台への吸収力と,舞台・客席の相互浸透という二つのベクトルがあるように思うが,ともあれヨーロッパで16世紀末に出現する一連の常設劇場の中では,エリザベス朝ロンドンのグローブ座(シェークスピアの常打ち小屋)などが,客席張出し型(張出舞台)によって中世末期の祝典劇の参加の構造を保っている。それに対して,A.パラディオ設計になるテアトロ・オリンピコ(オリンピコ劇場)やパリの最初の常設劇場であるブルゴーニュ館劇場(ブルゴーニュ座)は,すでに舞台・客席対面型の配置をとる。 これら常設劇場の出現で注目すべきことは,一方ではそれが文学戯曲の成立・完成による,言葉を中心とした演者・観客双方における新しい集中の仕方の優位と不可分であること,しかも他方では,オペラやバレエといった舞台機構の技術的洗練による大スペクタクルの実現と演劇内部へのその統合という,視聴覚両面における総合的幻想快楽の追求を可能にする事件でもあったことである。…
…古代劇は,悲劇と喜劇のジャンルの明確な区別,そしてそれにともなう主人公の身分上の違い,また韻文が用いられることなど,さまざまな点で〈規則的〉な特徴を示しているが,そのような〈規則性〉はこの時代の人文学者たちに大きな影響を及ぼしている。セネカの悲劇では場所の統一が守られており,一方の喜劇では,前舞台が街頭をあらわし,その後方に登場人物の家々が並ぶというほぼ定まった形がとられているが,前1世紀のローマの建築家ウィトルウィウスの建築書の劇場の章は,その形を基本にした前舞台と後方に五つの扉のある劇場についてふれており,それはルネサンス期にビチェンツァのオリンピコ劇場(1584)などの設計の指針となった。やがて人文学者たち自身も戯曲を書き始め,セネカに倣った運命の残酷さを描くG.G.トリッシーノ(1478‐1550)やジラルディ・チンツィオ(1504‐74)の恐怖劇が生まれた。…
※「オリンピコ劇場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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