円形劇場(読み)エンケイゲキジョウ

デジタル大辞泉 「円形劇場」の意味・読み・例文・類語

えんけい‐げきじょう〔ヱンケイゲキヂヤウ〕【円形劇場】

中央を舞台とし、その四方を囲むように観客席を配した劇場形式。また、それを用いる上演形式。
古代ローマで、剣闘士の試合などを見せるための円形・楕円形建造物。競技の場を中心に同心円状、階段式に観覧席がある。ローマのコロセウムが有名。

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精選版 日本国語大辞典 「円形劇場」の意味・読み・例文・類語

えんけい‐げきじょうヱンケイゲキヂャウ【円形劇場】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 古代ローマで、スポーツ、剣闘の試合などのためにつくられた円形、楕円形の建造物。観覧席は競技の場を中心に同心円状、階段式に配列してある。コロシアム
    1. [初出の実例]「丁度円形劇場に似た風で、すりばちのやうに八方から斜面が切れ込んでゐる」(出典:日の果て(1947)〈梅崎春生〉)
  3. 舞台の四方を囲むように観客席を配置した劇場。一九三二年、ワシントン大学のG=ヒューズ教授が考案した。

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改訂新版 世界大百科事典 「円形劇場」の意味・わかりやすい解説

円形劇場 (えんけいげきじょう)

観客席が演技空間をとり囲むという構造をもった劇場。ただし,客席が舞台を完全に囲んでいなくても,近代の多くの劇場のように両者が明瞭に分離していない場合は,円形劇場に準じて考えてよい。演劇発生期の劇場の多くは,こういう形態をとっていた。たとえば古代ギリシアの劇場では,舞台後方以外の部分は客席に囲まれており,舞台前部の,コロスの演技に用いられたと考えられる円形のオルケストラと呼ばれる部分は,直接客席に接していた(この語から発した〈オーケストラ〉という英語は,現代アメリカでは1階の客席を指す)。古代ローマには,階段式の客席が競技場を囲む,アンフィテアトルムamphitheatrumと呼ばれる円形劇場があった。ローマに現存するコロセウムはその例である。中世でも,野外で演じられる劇を観客がとり囲んで見たことがあった。しかし近代になって,装置を重視する額縁舞台が主流を占めるとともに,円形劇場は消えていった。それが再び注目されるようになるのは20世紀に入ってからである。たとえばイギリスには,演出家ジョーゼフStephen Josephがストーク・オン・トレントのビクトリア劇場を改造して1962年に開場した円形劇場がある。しかし最も注目されるのはアメリカの場合で,1940年にシアトルワシントン大学にヒューズGlenn Hughesが設立したペントハウス劇場,47年に女流演出家ジョーンズMargo Jonesがダラスにつくった円形劇場,ニューヨークのサークル・イン・ザ・スクエア(1951完成),ワシントンのアリーナ・ステージ(1961)など多くの例がある。これらはいずれも額縁舞台を否定して演技空間の解放をねらい,装置や道具よりも俳優の演技を重視し,舞台と客席の融合を目ざすもので,演出や演技のあり方はもとより,戯曲の書き方そのものの再検討をも迫っている。これは演劇を日常的現実とは異なるものとしてとらえるには確かに有効な試みである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「円形劇場」の意味・わかりやすい解説

円形劇場
えんけいげきじょう

演技空間を中心に、円く取り囲むように観客席を配置した劇場。これは東西古今の芸能空間に共通してみられる形式であるが、とくに古代ギリシアやローマには、芸能空間を円形と結び付けて考える強い伝統がみられた。ギリシアの野外劇場では、舞台前面のオルケストラorchestraという円形の平土間が合唱隊の舞踊などの場として重要な意味をもった。観客席は自然の地形を利用したすり鉢状の斜面内に、それを取り囲むように同心円の階段状につくられ、円形の秩序が強く劇場内を支配している。ヘレニズム期以降はオルケストラは半円に圧縮され、演技の場から貴人席へと性格を変えたが、弧状の観客席はそのまま円形空間の性格を保っていた。古代ローマでは、すり鉢状の観客席をボールト架構で支える方式が考案され、これにより、弧状の輪郭が劇場外観にも表れて、円形との結び付きをさらに強めることとなった。ローマのコロセウム(80年ごろ)をはじめとする壮大な楕円(だえん)形の闘技場は、芸能空間と円形との関連をもっとも端的に表現するもので、アンフィテアトルムamphitheatrum(円形劇場の意)とよばれ、近代の競技場の原型となっている。

 ローマ滅亡後は一時伝統がとだえたが、ルネサンス期にふたたびそれへの関心が高まった。しかしこのころから劇場自体はプロセニアム舞台の方向へ進み、円形にまつわる劇場的特質は都市広場や庭園、建築の意匠などに象徴的に表れるほうが多かった。18世紀には、当時の劇場の主流であった桟敷(さじき)席を排し、古代風の弧状階段席にせよという声があがり、19世紀に入りバイロイトの祝祭劇場でようやくそれは実現するが、しかしそこでは円形劇場の記憶自体はほとんど失われてしまっていた。

 20世紀に入ると、因襲的な額縁舞台への反発、古代劇復活上演による刺激などから、1932年にはワシントン大学のグレン・ヒューズが、舞台四周を客席で囲む円形劇場theatrein-the-roundを提案、40年にペントハウス劇場Penthouse Theatreを同大学内につくった。以来、この方式は素朴な演劇本来の姿を取り戻すための試みとして各地で取り上げられ、近年では商業劇場のなかにも部分的にこれを取り入れたものが現れている。しかしこれらの現代の円形劇場は、現代の劇場が独自の空間的性格を失い、無機的な多目的空間となる傾向と呼応しており、古代の円形劇場の伝統とは異なるものということができる。

[福田晴虔]


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百科事典マイペディア 「円形劇場」の意味・わかりやすい解説

円形劇場【えんけいげきじょう】

(1)amphitheatrumの訳。古代ローマの演技場形式。すり鉢形の底にアレナ(競技場)があり,周囲に階段状の観客席を設け,剣闘や猛獣の格闘を行わせた。コロセウムが代表的。(2)英語arena theatreまたはtheatre in the roundの訳。舞台の四方を客席に囲まれた劇場。1932年ワシントン大学でG.ヒューズが考案したものなどが注目される。装置を重視した額縁舞台よりも,舞台と客席との親和を生み,自然な演技を強調するのに適した上演形式。米国を中心に世界各国に広がった。
→関連項目管弦楽劇場張出舞台舞台

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「円形劇場」の意味・わかりやすい解説

円形劇場
えんけいげきじょう
amphitheatre

古代ローマの公共建築の一形式 (→アレナ ) 。ギリシア語 amphitheātronに由来するが,古代ギリシアには先例のない,純粋にローマ的な特徴をもつ建造物。剣闘士 (グラディアトル) の格闘などを,公衆の観覧に供するために使用された。平面は円または楕円形で,競技空間をすり鉢状の観客席が囲む。現存する最古の例はポンペイのもの (前 80頃) で,ローマのコロセウムが最も有名。近代には劇場の形式としても用いられ,ロンドンのコンノート劇場,ニューヨークのチャタム劇場などがある。

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世界の観光地名がわかる事典 「円形劇場」の解説

えんけいげきじょう【円形劇場】

イタリア北部のベローナ(Verona)の市街中心部にある、古代ローマ時代の屋外闘技場跡。ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの治世、あるいは遅くとも西暦30年ぐらいには完成していたといわれているが、詳細は不明。長径139m、短径110mの楕円形をしていて、74のアーチ、ステージから74段の石段がある。現存する円形劇場の遺跡としては、世界で3番目の規模である。3階の構造のアーチがあったが、1117年の地震で倒壊してしまい、その一部が北西の外壁に残っている。ここは、毎年夏(6月下旬から8月末ごろまで)、屋外オペラが上演されることでも有名である。

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世界大百科事典(旧版)内の円形劇場の言及

【劇場】より

…しかし20世紀初頭からの実験演劇の展開とともに,演技空間と観客席とを一体化した空間を求める動きが起こった。すなわち,観客席が舞台のまわりを囲む円形劇場への志向は,この空間構成に演劇の原初的な感動をよみがえらせる場を求めようとするものであった。この模索は今日も続けられている。…

※「円形劇場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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