日本大百科全書(ニッポニカ) 「カオヤーツ」の意味・わかりやすい解説
カオヤーツ
かおやーつ / 烤鴨子
北京(ペキン)料理の代表的なものの一つで、一般に「北京ダック」といわれ、また「掛炉鴨子(コワルーヤーツ)」ともいう。烤(カオ)とは直火(じかび)焼きのことで、この料理に用いる鴨子(アヒル)は填鴨(ティエンヤー)といって、とくに飼育して太らせた生後80日前後(約2.5キログラム)のものを最適とする。作り方は、鴨子を殺してから抜毛し、打気(ターチー)といって皮と肉の間に空気を吹き込むが、これは焼くときに熱が平均に回り、色付きもよく、できあがりがよいためである。腹腔(ふくこう)に少量の酒を入れて洗い、ネギ、ショウガ、チョウセンニンジン、雪裏蕻(シュエリーホン)(カラシナの一種)、荷葉(ホーイエ)(ハスの葉)などを詰める。これらを詰めるのは、鴨子の臭みをとるためと、焼くとき脂肪が全部皮に集中して、肉が残滓(ざんし)になるのを防ぐためという。次にこれを蒸すかあるいはゆで、つるして水けを切り、蜂蜜(はちみつ)を体全体にたっぷり塗って乾かし、掛炉(中国の特殊な炉)に入れて40~50分間、皮が平均に濃いきつね色になるように焼き上げる。皮と肉を別々に一口ぐらいの大きさにそぎ切り、適当に切った長ネギ、キュウリなどとともに薄餅(パオピン)、甜醤(ティエンチャン)(甘みそ)を添えて供する。食べるときは、この薄餅に鴨子の皮と野菜、甜醤を包んで食べるのがこの料理の特徴で、古く回族によって中国にもたらされたものという。
[野村万千代]