カルボ条項 (カルボじょうこう)
Calvo clause
国家と外国人との間の契約から生じた紛争は,もっぱら,当該国家の国内裁判所によって解決することとし,外国人は本国政府の外交的保護を求めない旨を定めた条項のことで,主として,中南米諸国とアメリカ人ないしヨーロッパ人との間の契約に挿入された。19世紀から20世紀初めにかけて,中南米諸国の側にささいな契約不履行があると,外国人の求めに応じてその本国である欧米の先進資本主義国が外交保護権の名目のもとに武力介入するという事態が頻発した。それに対抗する手段として,アルゼンチンの政治家・国際法学者カルボCarlos Calvo(1824-1906)が考え出したので,この名がついた。通説は,ほんらい国家の権利である外交保護権を個人(外国人)が放棄することはできないという理由から,カルボ条項が国際法上無効であるとする。ただし,カルボ条項に一定範囲の法的効果を認めた判決もないではない。なお,現在では,中南米以外の発展途上国企業との間の開発協定にも一種のカルボ条項が含まれることが多い。さらに,最近は,カルボ条項にかわり,紛争を仲裁によって解決すべきことを定めた条項が挿入されるケースも少なくない。
執筆者:波多野 里望
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
カルボ条項
かるぼじょうこう
Calvo clause
国家と外国人との契約に挿入されることのある規定で、その契約から生じる紛争は、もっぱら当該国家の国内的救済手続によって解決するものとし、外国人が本国政府の外交的保護を求めないことを内容とする。アルゼンチンの国際法学者カルボが発案したのでこの名をもち、外国人が自国民より有利な特権的地位にたつことは許されないとする主張が、その基礎にある。19世紀から20世紀の初めにかけて、ヨーロッパ諸国やアメリカが、自国民に対する契約上の債務の不履行を理由に、しばしばラテンアメリカ諸国に干渉した。これに対抗するため、カルボ条項が取り入れられたが、最近わが国の会社が新興諸国との間に結ぶ契約中にも、同様の規定がみられる。カルボ条項は、国家の外交的保護権を奪うものであるから無効であるとするのが欧米の通説であるが、部分的にその効力を認めた仲裁裁判例もある。
[太寿堂鼎]
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世界大百科事典(旧版)内のカルボ条項の言及
【ドラゴ・ドクトリン】より
…そのきっかけは,同月9日,ベネズエラの債務不履行に業を煮やしたドイツ政府が,イギリス(後にイタリアも参加)の協力を得て武力でベネズエラの港湾を封鎖し,関税収入を押収しようとしたことにあった。アルゼンチンでは1868年に法学者のカルロス・カルボが債権取立てのための武力行使を批判したいわゆる[カルボ条項]を発していたが,ドラゴはそれを踏襲して,(1)債務国は債務支払いの義務を負うが,債務のゆえに武力干渉の対象となるべきではない,(2)ベネズエラに対するヨーロッパ諸国の軍事力の行使は領土の侵犯であり,[モンロー主義]にそむく,と主張した。この宣言は国際的な承認を得るには至らなかったが,債権国の武力行使にある程度の歯止めをかける効果をもったといえよう。…
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