自国民が一般に外国においてその身体や財産を侵害され,損害を受けた場合に,国家がその侵害を自国に対する侵害として,みずから相手国の国際法上の責任を追及すること。その権利を外交保護権という。国家が外交保護権を行使するためには,一般に次の二つの要件が満たされていなければならないとされる。第1に,侵害を受けた個人が,その外国において利用しうる行政的,司法的な国内的救済の手段をすでに尽くしていることが必要である(国内的救済の原則)。これは,私人に関する問題が直ちに国家間の紛争に転化する事態を回避するためである。第2に,侵害を受けた個人が,侵害を受けたときから自国による外交保護権の行使までの間,自国の国籍を継続して保持していることが必要である(国籍継続の原則)。これは,事件の過程で被害者が強国に国籍を変更することによって強国が権力的に介入することを防止するため等の理由によるものである。また,外交保護権を行使するための国籍は,国家と個人との実質的な結合関係に従って許与されたものでなければならない(ノッテボーム事件に関する国際司法裁判所判決。1955年4月6日)。
外交保護権は国家自身の権利であって,国家が被害を受けた自国民に代わって相手国の責任を追及するという性格のものではないので,その行使・不行使の決定等は,当該国家がみずからの判断で行いうる。したがって,被害者が本国政府に対して外交的保護を求めても,政府の判断で保護がなされないこともあり,また被害者が希望しなくても本国政府が独自の判断で外交保護権を発動することは可能である。このように外交保護権とは国家の権利であるが,他方,個人の保護のため,国際裁判所への個人の提訴権が条約により認められている例もある。
なお,個人と外国政府との契約のなかに,契約上の紛争については本国政府による外交保護権の発動を認めないという,いわゆるカルボ条項が挿入されることがある。
執筆者:野村 一成
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自国の国民が外国においてその身体や財産を侵害された場合に、国家がその外国に対して当該自国民に適切な救済を与えるよう要求することをいう。これは国際法によって認められた国家の権利であるが、外交的保護を行うためには次の二つの要件が満たされていなければならない。第一は、被害者である私人が侵害を受けたときから外交的保護がなされるまでの間、継続して自国の国籍を保有していることである。これを国籍継続の原則という。第二は、被害者がまず在留国の国内的救済手続に訴え、しかも、利用しうるすべての救済手続を尽くしていることである。これを国内的救済の原則という。このように、在留国の国内的手続によっては結局公正な救済が得られなかったときに、初めて本国は自国民の保護に乗り出すことができる。外交的保護の制度は、国家が内外人を問わず、その領域内にいるすべての人を統治する権利を優先させ、これに、国家が所在地のいかんを問わず、すべての国民を統治する権利を調和させたものである。しかし、この制度は、私人の保護という観点からは合理的なものではない。なぜなら、外交的保護は私人の権利ではないから、私人が保護を要請しても、本国が相手国との関係を考慮してこれを取り上げないことができるからである。したがって、私人が国際的な機関に救済を求める道を開くことが望まれている。
[太寿堂鼎]
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