日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーボンフィルム」の意味・わかりやすい解説
カーボンフィルム
かーぼんふぃるむ
carbon film
薄膜状の炭素のことで黒鉛フィルムともいう。炭素はもろい固体粉末で通常、薄膜とはならないが、濃硝酸と濃硫酸の混酸に天然黒鉛を数分間浸漬(しんせき)すると酸化黒鉛となる。これを水洗、乾燥し800℃程度で焼成すると、黒鉛はもとの体積の50倍から100倍に膨れた膨張黒鉛となる。この膨張黒鉛をロール成形してやると容易にフィルム状となり、なめし革のような感触をもっている。酸化黒鉛を直接フィルム状に成形したのち、熱処理をしてカーボンフィルムとすることもできる。カーボンフィルムは機械的強度は小さいが、潤滑性に優れており、また熱、電気伝導性が大きく耐酸性も大きい。
シート状可撓(かとう)性黒鉛(カーボンフィルムより、やや厚いもの)は、パッキン、テープ、ガスケットなど広い用途がある。
前記の古くからあるカーボンフィルムに対して、薄膜状に成形したポリイミド、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂などの耐熱性高分子樹脂を熱処理した薄膜はいろいろな機能性を有し、とくにガラス状炭素薄膜は燃料電池用セパレーター(隔離板)や各種電極用の材料として応用されている。化学蒸着法(CVD法=Chemical Vapor Deposition法)により炭化水素ガスから基板上に析出した厚さが数ナノメートル~100マイクロメートルの超薄膜炭素もこの分類に入る。これらの薄膜状炭素の構造は黒鉛型であるが、プラズマCVD法によって析出した薄膜炭素の構造はダイヤモンド様カーボン(DLC=diamond like carbon)である。DLCは、完全な炭素の結晶形であるダイヤモンド中に結合の規則性が崩れた非晶形部分を含んだものをさす。さらに水素を多量に含んだDLCも知られている。DLCはダイヤモンドと同じく透明で硬い膜となるので新しい用途が期待される。
[真田雄三]