熱処理(読み)ネツショリ

デジタル大辞泉 「熱処理」の意味・読み・例文・類語

ねつ‐しょり【熱処理】

[名](スル)材料に加熱冷却の操作をして、目的とする特性に改善すること。金属の焼き入れ・焼きなまし・焼き戻しなど。

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精選版 日本国語大辞典 「熱処理」の意味・読み・例文・類語

ねつ‐しょり【熱処理】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 材料に加熱、冷却を行なって、その機械的性質を変えること。熱処理によってかたさを増すことを焼入れ、やわらかくすることを焼戻し、かたさとその分布を加減することを焼ならし、または調質という。〔現代日本技術史概説(1956)〕
  3. 加工食品飲料などの製造過程で、殺菌や保存などの目的で熱を加えること。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「熱処理」の意味・わかりやすい解説

熱処理
ねつしょり

物質を加熱したり冷却したりすると、内部構造(組織)に変化がおこって、性質が著しく改良されることがある。これを利用して工業材料の特性向上を図る技術を熱処理という。

 鉄鋼材料は熱処理によって特性を大幅に変換しうる材料の代表例であり、自在に変形できるように軟らかくもなるが、逆に、鋼自身を削りうるほど硬くすることもできる。図Aの①は焼きならし処理を図示したもので、鋳造組織や鍛造組織など種々雑多な組織であったものが、この処理によって標準的な組織にならされるので、本来の熱処理に先だって、焼きならし処理が行われる。図Aの②は焼入れ・焼戻し処理であり、高温(約900℃)から急冷すると、鉄鋼に特有の相変化(マルテンサイト変態)がおこって、非常に硬い組織になる。このままではもろいので、200~600℃で再加熱(焼戻し)して、強靭(きょうじん)な鋼とする。よく知られた日本刀の焼入れ・焼戻しは、鎌倉時代初期に創案された熱処理法であり、今日、刃物や鋸(のこぎり)などの工具用鋼に行われている焼入れ・焼戻しと基本的には変わりがない。

 ジュラルミンは航空機の機体などに使用されている代表的なアルミ合金であるが、この材料も熱処理によって著しく強化される。図Bの①のように、まず高温(ただし融点以下)で加熱してから、急いで冷却する。この処理によって、アルミ結晶中に合金原子が余分に溶け込んだ状態(過飽和固溶体)になる。ここまでの熱処理を溶体化という。次に、100℃程度に再加熱(時効)すると、溶け込んでいた余分の合金原子が、微細な独自の結晶を組んで析出し、その結果、アルミ結晶が著しく強化される。この現象析出硬化とよばれていて、アルミ合金だけでなく、ファインセラミックス材料の強化にもきわめて有効な熱処理である。また、析出に伴って強度以外の物理的特性も改善されるので、磁石材料の熱処理にも広く応用されている。

 図Bの②は、加工法と熱処理法とを組み合わせて、結晶粒微細化を行う方法を図示したものである。材料は一般に結晶粒が細かいほど強靭になるので、近年の構造用材料は、加工熱処理によって結晶粒を1マイクロメートル程度に制御されているものが多い。

[西沢泰二]


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改訂新版 世界大百科事典 「熱処理」の意味・わかりやすい解説

熱処理 (ねつしょり)
heat treatment

金属,半導体,セラミックスなどに必要な性質を与えるために固体の状態で行う加熱と冷却の諸操作の総称。基本的には焼入れ焼きなましの2種に分類される。広義の焼入れの目的は,熱的に平衡な状態としては得られない状態を無理に非平衡状態として得ることであり,鋼のマルテンサイト変態のための焼入れ,高温で安定な相を低温に準安定状態で凍結するための焼入れ,析出硬化性合金の溶体化処理などがこれに含まれる。広義の焼きなましの目的は,熱的に非平衡な状態を平衡な状態に向かって変化させることである。これに属する広義の焼戻しには,鋼の焼戻し,析出硬化性合金やデビトロセラミックス(結晶化ガラス)の析出処理などが含まれる。多くの場合,焼入れと焼戻しを1対にして性質の調節(調質)に用いる。調質のために塑性加工と熱処理とを組み合わせた加工熱処理を行うこともある。溶接後などの熱ひずみ,あるいは加工によるひずみおよび硬化を除去し軟化させる目的の焼きなましは,ひずみ取り焼きなましあるいは応力除去焼きなましと呼ばれる。とくに再結晶を目的とし,結晶粒を整えるときには再結晶焼きなましと呼ぶ。熱強化ガラスの製造では,意図的に残留応力が生じるように冷却するという熱処理が行われる(これは一種の焼入れである)。凝固組織中の成分の不均一を除去する均質化焼きなまし,半導体素子製造のときの拡散焼きなまし,鋼の焼きならしなども広義の焼きなましに属する。

 焼入れは,焼入れ(あるいは溶体化)温度に保って高温相(あるいは固溶体)とする操作と,望ましくない相変化が生じないように急速に冷却する操作とから成る。必要な冷却速度を得るために,水,湯,油の中へ投入するか,ガス中での放冷などが行われる。鋼の種類によっては通常の焼入れでは十分にマルテンサイト化が起こらず,オーステナイトが未変態のままで残ることがある。この残留オーステナイトをマルテンサイト化するために,ドライアイスあるいは液体窒素を用いて0℃以下に冷却することもある。この操作を深冷サブゼロ処理という。焼きなましにおいては必要な高温に,必要な時間保った後,一般には炉中などで徐冷するが,望ましくない相変化を起こさせないために必要に応じて急冷する。

 熱処理中に起こる基本的過程には,成分原子の拡散による組成の場所的分布の変化,転位など格子欠陥の消滅あるいは生成,他の相の析出やマルテンサイト変態などの相変態がある。熱処理をした場合に起こるおもな性質の変化は,半導体素子においては不純物の濃度分布の変化であり,金属やセラミックスでは格子欠陥の消滅と相変態によるミクロ組織の変化である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「熱処理」の意味・わかりやすい解説

熱処理
ねつしょり
heat treatment

温度制御により金属材料の内部組織・性質を人工的に調整する方法。焼鈍焼準焼入れ焼戻しなど種々の方法があり,それぞれ単独で,ときには組合せて行われる。加熱温度,保持時間,加熱・冷却の速度,使用炉などは,材料により非常に多様であるが,以後の加工または使用に最良の状態にするために,組織・結晶粒度などが主として改善される。熱処理による材料の改善の例は鉄鋼材料に最も多く,工程も非常に複雑なものが多い。また銅合金,軽合金その他も,熱処理によって材料の調整がなされている。特に鉄鋼では,塑性加工と熱処理の目的を同時にかつ高度に達成するオースフォーミングのような加工熱処理法が行われ,機械的な制御と併用した材料の高性能化が行われている。また高温だけでなく,極低温を用いる深冷処理なども熱処理の一つである。

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化学辞典 第2版 「熱処理」の解説

熱処理
ネツショリ
heat treatment

固体の金属あるいは合金に対して,溶融温度以下で所要の性能を付与するために行う加熱,加熱温度における保持,冷却操作の種々の組合せをいう.熱処理は加熱,冷却中の原子の拡散による均質化,再結晶,析出あるいは相変態に伴う性質の変化を利用したものである.鋼についてみれば,焼ならし焼なまし焼入れ焼戻し,サブゼロ処理,浸炭,窒化などは熱処理である.ただし,単に熱間加工を行うための加熱,冷しばめ,焼きばめの加熱・冷却などは通常熱処理に含めない.また,熱処理はほかの方法と組み合わせて所要の性能を得ることを目的に行われることがある.たとえば,塑性加工と組み合わせた加工熱処理,磁石合金にほどこされる磁場中冷却などである.

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百科事典マイペディア 「熱処理」の意味・わかりやすい解説

熱処理【ねつしょり】

金属,半導体,セラミックスなどに,所要の性質または状態を与えるために行う加熱,冷却の操作。基本的には焼入れ焼鈍しに大別される。

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栄養・生化学辞典 「熱処理」の解説

熱処理

 食品を調理,加工の目的で加熱すること.

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世界大百科事典(旧版)内の熱処理の言及

【合金】より

…分散粒子形成の効果としては,再結晶によって生成する結晶粒の寸法,集合組織の制御などもある。 高温加熱や低温への急冷などを行うことにより,温度による溶解度の差や格子変態を利用して合金の組織を変化させて合金の性質を制御する方法を熱処理という。析出硬化処理もその一つの例である。…

【集積回路】より

…(2)特定の種類のガス雰囲気中で高温状態にすること。これを熱処理という。通常は窒素と水素が用いられる。…

※「熱処理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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