改訂新版 世界大百科事典 「ガウプ」の意味・わかりやすい解説
ガウプ
Robert Gaupp
生没年:1870-1953
ドイツの精神医学者。ウェルニッケ,ついでクレペリンに師事したのち,1906年からチュービンゲン大学の主任教授をつとめた。業績のなかではパラノイア研究が有名で,14年〈教頭ワーグナー〉の名で知られる大量殺人犯の精神鑑定を担当し,長期間にわたるその分析をもとに,パラノイアの妄想が特定の人格構造と特定の体験から心理的・了解的に発展することを説いて,人格反応としてのパラノイアの考え方を定着させた。第1次大戦後,器質性か心因性かで論争の的だった戦争神経症についても,外傷ヒステリーの説をつらぬき,神経症の心因論確立に力をつくした。ガウプの教室には,その自由な雰囲気をしたって,クレッチマーらの俊秀が集まり,ドイツ的力動論を目ざす〈チュービンゲン学派〉を築いた。36年,ナチスによる政治的圧迫のため退職したが,彼の学風はクレッチマーらにより継承され,今日に至っている。
執筆者:宮本 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報