日本大百科全書(ニッポニカ) 「グラスマンの法則」の意味・わかりやすい解説
グラスマンの法則
ぐらすまんのほうそく
グリムの法則に合致しないインド・ヨーロッパ語における帯気音の対応例を説明した音声法則。グリムの法則によれば、印欧基語の帯気音[bh, dh, gh]はゲルマン基語ではそれぞれ無帯気音の[b, d, g]に変化したことになっている。しかし、サンスクリット語の bōdhāmi「私は目覚める」とギリシア語の peuthomai「私は覚える」を、ゲルマン系の古代英語の bēodan「命じる」と比較してみると、サンスクリット語の語中の帯気音dhがギリシア語でthとなり、古代英語ではdに変化している。この限りでは、グリムの法則にかなっている。しかし、サンスクリット語の語頭のb音が古代英語のb音に対応している。これはグリムの法則に反する。そこで、この法則の真価が疑われた。ときにドイツの言語学者グラスマンは、帯気音が隣接した音節において二つ連続した場合は、どちらか一方が無帯気音に変わることを発見した。すなわち、印欧基語におけるbheudhomaiがギリシア語では両方の有声帯気音が無声化してpheuthomaiとなり、さらに語頭音が無帯気音となってpeuthomaiが派生したと説明した。このグラスマンの法則によりグリムの法則が再確認され、音韻法則に例外なしといわれるまでになった。
[小泉 保]