異化(読み)イカ

デジタル大辞泉 「異化」の意味・読み・例文・類語

い‐か〔‐クワ〕【異化】

[名](スル)
dissimilation》音変化の一種。同じ音、あるいは調音上類似している音が一語の中にあるとき、一方が別の音に変わる現象。「ナナカ(七日)」が「ナヌカ」または「ナノカ」、「ボノーニア」(地名)が「ボローニア」となるなど。
生物外界から摂取した物質を体内で化学的に分解して、より簡単な物質に変える反応。これによってエネルギーを得る。カタボリズム異化作用。⇔同化
心理学で、差異の著しい二つの性質や分量を接近させることで、その差異がさらにきわだつこと。
ロシアフォルマリズムの手法の一。日常的で見慣れた題材を異質なものに変化させること。シクロフスキーらの提唱した語。
異化効果

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精選版 日本国語大辞典 「異化」の意味・読み・例文・類語

い‐か‥クヮ【異化】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 心理学の用語。差異の著しい二つの性質または分量を接近させるとき、両者の差異がさらにきわだつこと。
  3. いかさよう(異化作用)」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「異化」の意味・わかりやすい解説

異化 (いか)

一般に同化に対する語。生物学(〈同化作用〉の項目を参照),心理学でもこう呼ばれる現象があるが,ここでは文芸的な術語だけを扱う。本来はブレヒトが演劇で用いた〈異化効果Verfremdungseffekt〉に由来する。英語でalienation,フランス語でdistanciation,中国語では間離化,陌生化とも訳されているが,語義からいえば作品の対象をきわだたせ,異様(常)にみせる手続をいう。文学的な技法としては古くから用いられており,ブレヒトはロシア・フォルマリズムの用語からもヒントを得たという。1936年にブレヒトははじめてこの術語を用いたが,それが彼の演劇の中核的技法となるにしたがって,自身によって何度も定義が試みられた。あるできごとや人物から,わかりきった,あたり前に思われる部分を取り除き,それに対する驚きや好奇心を生みだす,というのが基本的な定義であるが,先入見によって〈既知〉と思っていたものを〈未知〉のものに変える手続は,弁証法的に,その対象を真に〈認識〉する行為を促すことになる。認識行為までを含んだところがブレヒトのいう異化の特徴である。対象が政治的・社会的な立場で異化されるならば,まだ達せられていない正常な状態の認識は,世界の変革と結びつくことになる。彼が異化は歴史化であるといい,闘争的な技法であるというのはそのためである。あるがままの状態を受け入れず,通念を打破する点で,異化は感情同化に基づく演劇とは対立する。観客が舞台に同化していては,演じられる事件や人物に驚きや好奇心を抱いて自分で認識に到達するようにはならないからである。したがって俳優も役に同化することなく,社会的身ぶり,つまりある時代背景の人物への特徴的な反映を示さなければならない。演技は体験ではなく実地教示(デモンストレーション)なのである。こういうさめた演劇からはカタルシスは追放されるが,ここでは認識が楽しみになるのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「異化」の意味・わかりやすい解説

異化
いか

生物体が、化学的に複雑な物質をより簡単な物質に分解する過程をいう。逆に、生物体がより簡単な物質から化学的に複雑な物質を合成する過程を同化という。異化作用は、食物として摂取した物質の細胞外(消化管内など)消化に始まり、この段階で、炭水化物、タンパク質、脂質はそれぞれ主としてブドウ糖アミノ酸、脂肪酸とグリセリンなどに分解され、吸収される。これらの物質は、次に細胞内に取り込まれ、さらに分解されたり、生体物質合成の原料として使われる。生命活動のエネルギー源として重要なのはブドウ糖と脂肪酸で、細胞内で水と炭酸ガスにまで分解され、このとき放出される多量の結合エネルギーは、分解過程に共役(きょうやく)したアデノシン三リン酸ATP)合成反応によりATPの高エネルギーリン酸結合の形で効率よく保存される。アミノ酸やグリセリンなども分解の中間産物がブドウ糖や脂肪酸の分解経路に入って同様に分解される。エネルギー獲得、すなわちATP形成は主としてミトコンドリアで行われるが、そのミトコンドリアは細菌類、藍藻(らんそう)を除くすべての細胞に存在する。異化作用の最終段階は酸素による酸化反応であり、呼吸により生体内に取り入れた酸素が用いられる。これを細胞呼吸という。運動、増殖、そのほか細胞の生活活動、生命維持に必要なエネルギーはすべて異化作用により獲得され、ATPとして細胞活動を支える諸反応に利用される。

[嶋田 拓]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「異化」の意味・わかりやすい解説

異化
いか
dissimilation

同一の,または共通点をもった,すなわち類似した2つの音素が,互いに隣接するか近い位置にある場合,その一方がより共通点の少い別の音素に変化する歴史的現象をさす。同化の反対。同一 (または類似) の要素を繰返し調音する労力を避けようとして生じる。ラテン語 per_egr_īnus「畑 agerを通って行く人」→ロマンス祖語 * pel_egr_īnus「異邦人」のようにr-r→l-rと先行音素が変るのを「逆行異化」 regressive dis.,ラテン語 ar_bor_em→スペイン語 ar_bol_「木」のように,r-r→r-lと後続音素が変るのを「順行異化」 progressive dis.という。タビビト→タビトのように一方の音節が脱落すること (「重音脱落」 haplology) もある。

異化
いか
catabolism

カタボリズムともいう。生物が栄養物質を分解して,その際解放される自由エネルギーを利用する反応の総称。同化の対語。異化反応の産物は,概して出発物質よりも簡単な化合物である。たとえばブドウ糖が出発物質のとき,産物は,解糖において乳酸,アルコール発酵においてエタノール,呼吸において二酸化炭素 (炭酸ガス) と水である。したがって,異化反応の生物学的目的は反応生成物自体にあるのではなく,得られるエネルギーにある。エネルギーは主としてアデノシン三リン酸の形で,化学エネルギーとして確保される。

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百科事典マイペディア 「異化」の意味・わかりやすい解説

異化【いか】

物質代謝により生体内の高分子化合物を分解すること。同化に対応する。おもなものに炭水化物や脂肪を二酸化炭素と水に分解する反応,タンパク質からアンモニアや尿素を生成する反応などがある。生体はこれらの反応過程の間に生じたATPをエネルギーとして利用する。

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栄養・生化学辞典 「異化」の解説

異化

 異化作用ともいう.同化(anabolism)の対語.摂取した食物の成分をCO2やH2O,尿素などの最終産物に分解していく作用,高分子物質を低分子物質へ分解する作用などをいう.

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世界大百科事典(旧版)内の異化の言及

【演劇】より

…その意味では,そもそもこの演じる者と見る者の関係自体が一つの遊戯なのであるが,この遊戯性としての虚構性は,少なくとも見ている者の側において相矛盾する二つの欲望に貫かれ,かつそれに脅かされている。それを〈同化〉と〈異化〉という概念で表すなら,まず観客の内部には,〈見ているものが限りなく現実に近く,現実そのものであれ〉という虚構と現実の同一視の欲望と,〈見ているものに完全に同化したい〉という欲望があり,前者はすでに触れた古代ローマの闘技士や公開の処刑,現代ならポルノ・ショーなどに見受けられ,後者は〈共同体の構成員が祝祭の狂喜乱舞のうちに一体感を味わう〉という演劇の始原的形態の幻想に通じる。と同時に,通常は,このような同化はあくまでも演劇という約束事の内部のことだと自覚されていて,それを異化して見る視点をどこかに保つものであり,それが意識的・知的な作業となればB.ブレヒトの説く〈異化〉作用であるが,多くの場合は,ちょうど夢の中にあって,自分が行為者であると同時に観客でもあり,かつしばしばそれが夢であることを知りつつ夢を見ているという,あの人格の二重化に似た同化と異化の使い分けをしているのである。…

【詩学】より

…【福井 芳男】
[フォルマリズムに始まる詩学の発展]
 〈詩学〉という言葉は,一般には詩の韻律・言語の分析や研究をいうが,構造主義の登場以後はとくにロシア・フォルマリズムに始まる詩,そして一般に文学テキストの構造的研究とその理論をさす。ロシア・フォルマリズム(1910年代後半に発足)は,世界の明視(ビジョン)の創造を芸術の目的とし,その方法は異化(V.シクロフスキーによる。ロシア語ではオストラネーニエostranenie)であるとした。…

【ブレヒト】より

… 33年2月27日の国会放火事件の翌日亡命したブレヒトは,同年暮にデンマークに落ち着くまでの間にも,バレエ劇《七つの大罪》や寓意劇《まる頭ととんがり頭》を執筆した。そこでは異化という手法が有効な手段として追求されるようになる。亡命の地,デンマークのスベンボルでのW.ベンヤミンK.コルシュらとの交流はよく知られているが,そこで彼は反ファシズム運動の活動を続け,《第三帝国の恐怖と貧困》や《カラールおばさんの鉄砲》を書いた。…

【ロシア・フォルマリズム】より

…すなわち,〈何が〉書かれているかではなく,〈いかに〉書かれているかがまず問題とされた。シクロフスキーの言を借りれば,芸術の目的は事物を異化・非日常化することにあり,知覚を困難にし長びかせるのが芸術の手法である。すなわち〈手法こそが唯一の主人公〉であった。…

※「異化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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