翻訳|syllable
音節は連続した音声における最小のまとまりある単位で,語をゆっくり区切って発音するとき音節の単位に分けられる。音節の構成方式は言語により異なるが,代表的なものを以下に紹介する。まず音声的音節であるが,これは音声連続の中でのきこえsonorityの頂の数が音節数に一致するとの説である。いま音声をきこえの大きさにより4群に段階づけすると,(1)無声閉鎖音[p,t,k],(2)有声閉鎖音[b,d,ɡ],無声と有声の摩擦音[f,θ,s,ʃ,v,z,ʒ],(3)鼻音[m,n,ŋ],流音[l,r],半母音[w,j],(4)母音に分類できる。いま英語の〈ジャックは小さな鳥を捕らえた〉という文を構成する音声にきこえの段階を割り当て,これを,前記の数字を用いてグラフに改めると,図1のように六つのきこえの山ができる。したがってこの文は6音節よりなるとみなされる。きこえ説では,little/3 4 1 3/という語は4と3の頂が現れるので2音節と評価される。しかしspa[spaː]/2 1 4/〈温泉〉では,2と4が頂を形成し2音節とみなされるおそれが出てくる。そこでフランスの言語学者グラモンM.Grammont(1866-1947)は調音器官の緊張が[s]から[p]へと高まっていくと説明し,緊張の上昇と下降の山を音節と解釈している。
次にプロミネンスprominenceの説では,音の高さ,強さ,長さも考慮に入れる。例えば,hidden aims〈隠されたねらい〉とhid names〈名前を隠した〉はいずれも音声としては[hidneimz]であるが,hidden[hidn]の[n]の方がnames[neimz]の[n]よりもプロミネンスが高いので音節を構成する成節音とされる。
ほかにステットソンR.H.Stetsonの胸拍説がある。これは呼気のとき胸の肋間筋がアコーディオンのように波打ちながら肺から息を流し出す運動を胸拍と称し,胸拍のリズムに音節を対応させている。
また,日本語では音節は音の長さ(拍)により決定される。単音をミリセカンド(100分の1秒)単位で測れば,〈ハカ〉の〈カ〉[ka]は9+8の長さをもつが,〈ハッカ〉の〈ッカ〉[kka]は16+9+8で,促音〈ッ〉[k]の長さは次の〈カ〉[ka]に匹敵する。同じことが撥音〈ン〉と長母音についてもあてはまり,促音や撥音および長母音で引きのばされた母音を1拍と数える根拠となる。
最後に,音素的音節では音素の占める位置によって音節の構造が分析される。いま子音をC,母音をV,半母音をSとすれば,英語のcat[kæt]〈ネコ〉はCVCの構造をもち,Vが音節の中核をなす。音節は図2のように構造的にまず開始部と中核部に分かれ,中核部が頂部と結尾部に割れるとされている。そして母音が頂部に立つのが普通である。英語では開始部に子音が三つまでくることが許される。例えば,strip〈はぐ〉はCCCVC。このようにCとVの組合せには制約がある。日本語で音節(拍)を形成するものにV,CV,CSV,Mの四つのタイプがある。Mはモーラ音素と呼ばれ促音音素/Q/と撥音音素/N/を含む。例えば,オンセーガク[onseːŋak]/ONseegaku/は,V・M・CV・V・CV・CVであるから6拍に数えられる。なおCSVはキャ/kya/のような拗音の構造を指す。
執筆者:小泉 保
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音声の流れにおける最小のまとまりある単位。発話を構成する音声はまず音節にまとめられる。普通は母音のような聞こえの大きい音を中心に、子音のような聞こえの小さい音が集結して音節を構成するが、その結び付き方は言語によって異なる。母音をV、子音をC、半母音をSで表せば、英語のstrike[straik]「ストライク」はCCCVSCという音声結合をなす。
英語の二重母音[ai]は、舌が[a]の位置から始まって[i]に向かって移動し、1音節を形成する。この場合、母音[a]が中核をなし、強めに発音され、[i]は弱く、短いので、半母音とみなすことができる。子音は音節の周辺にたつ付加音にすぎないから、CCCVSCは全体として1音節に相当する。日本語のアイ[ai]は、母音[a]の次に母音[i]が続き、どちらも同じ長さで発音されるので、連母音とよばれ、2音節に数えられる。音節を日本語では拍(はく)ともいう。
日本語の音節の基本的な型はCVで、子音の連続は許されない。そのため、英語のCCCVSCからなる1音節の語が、日本語に入ると、連続する子音の間と最後の子音の後ろに母音が添加されて、CV-CV-CV-V-CVと組み替えられ、ストライクと5拍で発音される。また日本語では、CVもしくはVのほかに、促音(そくおん)「ッ」や撥音(はつおん)「ン」も音節を構成することができる。
[小泉 保]
『シュービゲル著、小泉保訳『音声学入門』(1986・大学書林)』
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…音素は,平面的に並んで一挙に単語の音形を構成するのでなく,ある中間的まとまりを構成し,それが単語などの音形を構成するという状況を呈する。そのような中間的まとまりを〈音節〉と呼ぶ。音節の性格,構造は各言語によって異なるが,遠くまでよく聞こえるが発音にエネルギーを要する音(〈母音〉)を中心に,あまり遠くまで聞こえないが発音にエネルギーを要しない音(〈子音〉)をその前(または前後)に配置するという形が最も一般的である。…
…したがって,この面での研究が可能になるためには,研究者が,人間の発しうるあらゆる音の調音のしかたと音響的・聴覚的性質についての十分な知識(すなわち,〈音声学〉の知識)を身につけている必要があるし,また,どういう音を同一音素としてよいかという点での方法論を確立している必要がある。また,音素が単語などの音形をつくりあげる際には,通常〈音節〉と呼ばれる中間的なまとまりをつくり,その音節が一つないしはいくつか結びついて単語などの音形をつくりあげるということがわかっているので,そのような音節がその言語においてどのような性格と構造を有するかを研究しなければならない。また,ある意味で,単語(場合によっては,それより少し小さいか大きいもの)の上に〈かぶさって〉存在しているといってよいような〈アクセント〉や,文全体にかぶさって存在しているといえる〈イントネーション〉の研究も重要である。…
…
〔現代日本語〕
以下,世界の他の諸言語との比較という観点も含みつつ,現代日本語の主だった特色につきまず略述したのち,さらに音声・音韻,文法等個々の面に即して,やや詳しくまたある部分は体系的な記述・説明を行う。
【概説――日本語の特色】
[音声・音韻面]
日本語では音節(拍)の構造が〈子音+母音〉を基調としているので,母音で終わる〈開音節〉の語が多い。このため,例えば英語のstrike[stráik]は1音節であるが,日本語は[str]のような子音連続や[k]のような子音で終わることを許さないので,strikeという英語を日本語の語彙の中に取り入れるためには,これらの子音の間や終りに母音ウ[ɯ]やオ[o]を添加してス・ト・ラ・イ・ク[sɯtoraikɯ]と5拍に読み替えてしまう。…
※「音節」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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