改訂新版 世界大百科事典 「タキーヤ」の意味・わかりやすい解説
タキーヤ
taqīya
〈恐れ〉〈警戒〉を意味するアラビア語であるが,イスラムの用語としてはキトマーンkitmān,すなわち〈危害を加えられる恐れのある場合に意図的に信仰を隠すこと〉の意味に用いられる。最初にタキーヤを認めたのは,ハワーリジュ派の一派のイバード派であったが,のちシーア派諸派によって継承発展させられた。シーア派は,信仰は心と舌(言葉)と手(行為)によって表現されるが,もし自己または同信者の生命財産に危害の加えられることが確実であるか,またはその可能性が強ければ,舌と手による信仰の表現は隠してもよいとした。これは少数派として抑圧され,しばしば弾圧を経験したシーア派の自己防衛の手段で,彼らは最初の3代のカリフ在位中のアリーと,ガイバ(隠れ)にあるマフディーはタキーヤの状態にあるとした。スンナ派でも,異教徒から危害が加えられる恐れのある場合にはタキーヤを認める見解が,タバリーの《タフシール》にみえる。
執筆者:嶋田 襄平
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報