日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダブズ印刷所」の意味・わかりやすい解説
ダブズ印刷所
だぶずいんさつじょ
Doves Press
私家版印刷所。1900年にロンドン西部のハマースミスに、コブデン・サンダスンT. J. Cobden-Sanderson(1840―1922)が、エメリー・ウォーカーEmery Walker(1851―1933)と共同で開設した。イギリスの私家版・美本印刷運動のさなかに設けられたこの印刷所は、ウィリアム・モリスWilliam Morris(1834―96)の作品とは反対に、簡素な本作りを信条としたため、西欧の美本作りにかなり大きな影響を及ぼした。この印刷所の印刷物のなかでは、1903~05年に刷られた五巻本ダブズ版聖書が有名である。コブデン・サンダスンは、17年間続いた店を閉じるとき、意匠を凝らした活字がほかの人の手に渡ってつまらない使われ方をしないようにと、活字をテムズ川に投げ込んでしまった。
[高野 彰]
『寿岳文章著『書物の世界』(1973・出版ニュース社)』▽『S・H・スタインバーグ著、高野彰訳『西洋印刷文化史』(1985・日本図書館協会)』