日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダマスクスへ」の意味・わかりやすい解説
ダマスクスへ
だますくすへ
Till Damaskus
スウェーデンの作家ストリンドベリの戯曲。三部作。第一部、第二部は1898年、第三部は1904年発表。使徒パウロ(サウロ)の回心になぞらえて、「地獄の時代」(1892~97)後の、諦念(ていねん)、憐(あわ)れみへの接近を図る自らの夢幻の境地を主題に、新しい形式、手法を試みた戯曲。主人公「知られざる人」の遍歴、女性関係、錬金術など自伝的要素を色濃く反映している。「街角」に始まり、第九場「貧民院」で折り返し、「街角」で終わる第一部17場など、作家は各場面に技巧を凝らしている。作品としては第一部がもっとも優れ、それだけで独立した作品とみることができ、この部分だけ上演される機会が多い。
[田中三千夫]