改訂新版 世界大百科事典 「デリー,至徳の対象」の意味・わかりやすい解説
デリー,至徳の対象 (デリーしとくのたいしょう)
Délie, objet de plus haute vertu
フランス,ルネサンス期の〈リヨン派〉の詩人,モーリス・セーブの詩集。1544年刊。題名は〈理念l'idée〉のアナグラムで,理想の女性を賛美しようとする詩人の意図をあらわすとされる。構成は8行の序詞のあとに10行の短詩を449個並べ,寓意的な挿図を50個そのあいだに規則的に挿入した,きわめて意図的なものとなっている。セーブは年少の女流詩人ペルネット・デュ・ギエに恋したが,ここにおいては対象の女性は詩人の内心において美化観念化され,それとの精神的な合体を詩人はねがって,希望と苦悩のさまざまな局面を経めぐったのち,やがて愛の不滅についての確信にいたる。緊張にみちた語句の連結,効果的な象徴と寓意,ペトラルカに学んだ鮮明な映像的表現等,高度の詩的技巧を駆使したこの作品は,久しい忘却ののち,近代にいたり,フランス詩史を飾る重要な業績として扱われることとなった。
執筆者:荒木 昭太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報