記憶したことが想(おも)い出せないことを意味するが、保持あるいは把持retentionに対して用いる。
[小川 隆]
忘却は時間経過とともに進行するが、ドイツの心理学者エビングハウスの古典的研究(『記憶について』1885刊)では、無意味つづりのリストを完全に記銘したのち、分、時、日、週、月の諸時隔にわたって再学習法による想起を確かめている。節約率は一時間後に50%に低下し、その後、負の加速度をもって漸近線に近づくが、これを保持曲線retention curveという。保持曲線の別名が忘却曲線である。忘却曲線は種々な条件下でその後研究されたが、記銘後に低下した保持量がしばらくして一時回復することが明らかになり、これはレミニセンスreminiscenceといわれる。記銘時と想起時との間の時程での経験の差が忘却に強く影響を与える。睡眠時には覚醒(かくせい)時に比べて保持率は早く漸近線に到達し、しかも高水準にあることが認められている。2種の類似した項目リストを次々に記銘すると、前の記銘が後の記銘を干渉することがあり、これを順(前)向抑制proactive inhibitionという。同様な干渉は後の記銘による前の記銘に対しても生じ、これを溯(そ)(逆)向(こう)抑制retroactive inhibitionという。干渉は項目の中程度の類似で著しい。また、記銘間の時間については記銘直後の記銘、想起直前の記銘の干渉効果が著しい。記銘項目を記銘後復唱することが保持にとって有効で、復唱を禁止すると忘却が促進される。
[小川 隆]
感性的な直接記憶は秒単位で消失するが、短期記憶に残される保持量も多くはない。長期記憶に残される項目はさらに制限されるが、有意味な、連想価の高い、構造化された内容のものは忘れがたい。生活の要求に深く根ざした、自我関与の強い項目、情動と強く結び付いた項目は忘れがたい。情動でも不快なものは快に比して想起されがたいという場合があるが、これは一種の防衛機構の働きともみられる。自分の名前、生活、職業上必要な知識などは忘れないが、これらは抑制、構造、復唱などの条件について有利な性質をもつからともいえる。
[小川 隆]
経験内容を想起できないこと。学習効果の減弱も一種の忘却である。記憶の保持は時間とともに減少し,忘却率が増大する(エビングハウスの〈忘却曲線〉)。無意味な,関心の薄いものは忘れやすく,感動的体験や反復記銘は保持を良くする。自分に不都合なことは思い出しにくい傾向がある(抑圧の心理機制)。忘れていても再認は可能で,記憶は残っていることが多い。しかし,脳障害(老年認知症,中毒,外傷,腫瘍,脳炎など)では記憶自体が失われる。このとき,複雑な,より最近のことは失われやすいが,単純な,より古い記憶は保たれる傾向がある(〈リボの法則〉)。忘却はある意味では適応のために必要であり,睡眠と忘却の関連も興味深い問題である。
→記憶 →健忘
執筆者:浅井 昌弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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