なくに(読み)ナクニ

デジタル大辞泉 「なくに」の意味・読み・例文・類語

なく‐に

[連語]《打消しの助動詞「ず」のク語法「なく」+格助詞「に」》
詠嘆的な打消しを表す。…ないことだなあ。
「苦しくも降り来る雨か三輪の崎狭野さのの渡りに家もあら―」〈・二六五〉
詠嘆的に打消し、逆接的に接続する意を表す。…ないことなのに。
「やどりせし花橘はなたちばなも枯れ―などほととぎす声絶えぬらむ」〈古今・夏〉
[補説]「に」は詠嘆の終助詞とも。主として和歌に用いられ、上代では1の意で文末用法が多く、平安時代以降は2の意で文中の用法が多い。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「なくに」の意味・読み・例文・類語

なく‐に

  1. ( 打消の助動詞「ず」のク語法「なく」に助詞「に」の付いたもの )
  2. 「に」に逆接の役割がある。…ないうちに。…ないのに。…ないにもかかわらず。
    1. [初出の実例]「松の花花数にしもわが背子が思へら奈久爾(ナクニ)もとな咲きつつ」(出典万葉集(8C後)一七・三九四二)
  3. …ないのだなあ。…ないものを。逆接条件の帰結部を切り捨てた形で、詠嘆の意を表わす。
    1. [初出の実例]「大君の御帯の倭文服(しつはた)結びたれ誰やし人も相思は儺倶儞(ナクニ)」(出典:日本書紀(720)武烈即位前・歌謡)

なくにの補助注記

特に上代に発達していたもので、中古以降は、伝統的な語法として、和歌に用いられる他はまれになった。

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