日本語の品詞の一つ。辞のうち、活用がなく、単独で用いられることのないもの。それ自身は実質的観念をもたず、上接語句の指し示す客体的な事物・事態に対する言語主体のかかわり方や、聞き手に対する言語主体のかかわり方などを示す。活用をもつ辞である助動詞とともに、膠着(こうちゃく)語としての日本語の特色をなしている。助詞の働きには、素材間の関係の認定に関するもの、素材に対する評価限定を示すもの、陳述の強さに関するもの、文の性質を決定するもの、聞き手との関係を結ぶものなどがあるが、学説によって分類基準が異なり、また名称が同じでも所属語に異同がある。
大槻文彦(おおつきふみひこ)は、付く語の種類によって1類、2類、3類に分かち、山田孝雄(よしお)は職能とその示す関係とによって次のように分類した。(1)格助詞――体言または副詞に付いて、それらが句の構成要素としてどんな資格にたつかを示すもの。「が・の・を・に・へ・と・より・から・で」など。(2)副助詞――用言の意義に関係をもつ語に付いて、はるか下にある用言の意義を修飾するもの。「ばかり・まで・など・やら・か・だけ・ぐらい」など。(3)係助詞――陳述をなす用言に関係をもつ語に付いて、その陳述に勢力を及ぼすもの。「は・も・こそ・さえ・でも・ほか・しか」など。(4)終助詞――述語に関するもので、つねに文の終止にだけ用いられるもの。「か・え・な(禁制・命令)・よ・い・ろ・とも・ぜ・さ」など。(5)間投助詞――語勢を添えたり、感動を高めたりするのに用いられ、他の助詞に比してその位置が自由なもの。「よ・や・ぞ・ね・がな」など。(6)接続助詞――述格の語に付いてこれを次の句と接続させるもの。「ば・し・と・が・ところが・に・のに・ものを・から・も・とも・けれども」など、の6類である。また、これらの助詞が相互に重なる場合、その順序に規則のあることも説いた。
橋本進吉は、切れるか続くか、またどんな語に付くかによって分類し、山田の6類のほかに、(1)並立助詞――種々の語に付き、対等の関係で下の語に続くもの。「と・や・やら・に・か・なり・だの」。(2)準体助詞――付く語に体言の資格を与えるもの。「の(安いのがほしい)・ぞ(何処(どこ)ぞへ隠した)・から(そういうからには)・ほど」。(3)準副体助詞(連体助詞ともいう)――付く語に副体詞の資格を与えるもの。「の(松の雪)」。(4)準副助詞――付く語に副詞の資格を与えるもの。「と・ながら・まま・きり・がてら・ぐるみ・ごと(皮ごと)・とも(三つとも)」の4類をたてて10分類とし、助詞が相互に重なるときの順位をも詳しく示した。
時枝誠記(もとき)は、話し手の立場を理解するうえから、意味によって分かち、格を表す助詞、限定を表す助詞、接続を表す助詞、感動を表す助詞の四つとした。学校文法では格助詞、副助詞(係助詞と副助詞をあわせる)、接続助詞、感動助詞(終助詞と間投助詞をあわせる)とする。
歴史的にみると、助詞は、感動詞、指示語、体言など他の品詞から転じたものが多いと思われるが、その成立は古い。助詞の類に対する認識は奈良時代からすでにあるが、その後、漢文訓読に際して、助詞のほか、同じく日本語特有の文法構造である助動詞、活用語尾、接尾語などもヲコト点によって示され、これらすべてがテニヲハ、テニハと称された。のち、歌学においては、感動詞や一部の副詞の類までも含んでのテニヲハが重視され、その研究は比較的早くから行われていたが、不純物を含まず、しかも助詞の名称が定着するのは山田孝雄以後のことである。
なお、助詞はparticleと英訳されるが、英文法でのparticleとは「不変化詞」という意味で、冠詞、前置詞、接続詞、副詞、間投詞などを含み、日本語の助詞とは、概念が異なっている。助詞は西欧語の一品詞にのみ該当するものではなく、その働きは西欧語の格変化、前置詞、接続詞や副詞の一部、語序などの役割に対応する。
[青木伶子]
『山田孝雄著『日本文法学概論』(1936・宝文館)』▽『橋本進吉著『助詞・助動詞の研究』(1969・岩波書店)』▽『国立国語研究所編『現代語の助詞・助動詞――用法と実例』(1951・秀英出版)』▽『石垣謙二著『助詞の歴史的研究』(1955・岩波書店)』▽『此島正年著『国語助詞の研究――助詞史の素描』(1966・桜楓社)』▽『松村明編『古典語現代語助詞助動詞詳説』(1969・学燈社)』▽『鈴木一彦・林巨樹編『品詞別日本文法講座9 助詞』(1973・明治書院)』
日本語の品詞の一つ。古来〈てにをは〉とよばれているものにあたり,〈雨がふる〉〈学校から帰る〉の〈が〉〈から〉などがそれである。この品詞に属する語は,文節の構成にあたって,つねに他の語の後に伴われ,文節の頭に立つことがない。この点で助動詞とともに,名詞,動詞,形容詞,副詞,接続詞などの自立語と区別して付属語とよばれるが,さらに付属語の中で活用の体系をもたないと認められる点で,助動詞と区別される。
助詞の役目は,名詞,動詞,形容詞などが,客観視される事態そのものを表すのに対して,それらの事態についての言語主体(話し手)の意味づけに関係する。そして接続,切れ続きなどの形態上の特色によって分類され,橋本進吉の分類では,つぎの10種類になる。(1)接続助詞 用言にのみついて接続する(見テ帰る,聞けバ話す,安いカラ買う,見るガ見えない)。前件が後件の成立条件・理由・不適合共存条件などであるような,叙述と叙述との間の関係を示し接続詞の役目をする。ある語形は自立して接続詞ともなる。(2)並立助詞 種々の語について接続する(桜ト梅,犬ヤねこ,京都カ大阪,兄ダノ姉ダノ,右にヤラ左にヤラ,打つナリけるナリ)。事物の間の対照・並列・選択などを示す。(3)連体(準副体)助詞 種々の語について体言に続く(私ノ本,海からノ風)。前件が後件の事物への限定であることを示す。(4)格助詞 体言にのみついて用言に続く(花ガ咲く,花ヲ見る,都ニ住む,都ヘ上る,都カラ下る)。前件の事物が後件の作用に対して主・目的・場所・道具等々であることを示す。(5)係助詞 種々の語について用言に続く(雨にハあわない,それでコソ男だ,雪よりモ白い,君ダッテわかる)。一文の中でその文節が,種々のニュアンスで強調すべき問題点をもつことを示す。(6)副助詞 それ自身では切れ続きが明らかでないが,連用語の用法と体言の用法とをもつ(君ダケに話す,君にダケ話す,男マデが泣く,酒バカリのむ)。作用の及ぶ範囲程度を限定して示す。(7)準体助詞 体言の資格を与える(長いノがいい,君ノを見た,五つホドに切る)。(8)準副助詞 副詞の資格を与える(寝ナガラ読む,我ナガラおかしい,着たママ入る)。(7)と(8)は準用助詞。助詞か形式名詞かの問題がある。(9)終助詞 一文を終止完結する(行くカ,行くナア,行くヨ,帰りナ,帰るナ)。疑問,詠嘆,勧誘,禁止など,話し手の陳述様式を示す。(10)間投助詞 文節を切るが,必ずしも文を終止しない(それでネ,私がサ,これをデスネ,食べるサ)。相手の注意の要求(文脈の誘導),相手への態度などを表す。自立して感動詞となるものがある。また続く文節につく場合と切れる文節につく場合とでイントネーションに差がある。書きことばには普通現れない。助詞は多く文節の構成にあずかるものであるが,文節成立の必要条件ではない。ただ助詞のない文節にも,格助詞その他に相当する意味づけが行われている,と見ることができる。
歴史的には,古代から基本的には著しい変化はない。日本語としての特色は奈良時代にすでに自覚され,その後漢文訓読の際のヲコト点の組織と相まって,これらの語を〈てには〉〈てにをは〉とよぶ習慣を生じ,和歌,連歌,俳諧の上で重視され,研究も比較的早く起こった。西洋語では格変化,語序,前置詞,副詞,接続詞などの役割に応ずる。
執筆者:林 大
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…これに対して〈虚詞〉は単独ではそのような具体的なイメージをもたらさない。その表す意味は〈空霊〉で,実詞のはたらきを助けて話者の意志または情念を伝達するものであり,副詞や連詞や介詞や語気助詞(単に〈助詞〉と呼ぶ人がある)などがこれに属する。日本の漢学者のいう〈助字〉の範囲はいっそう広く,代名詞などをも含めることがある(中国の学者にも同様の説をなす人があった)。…
…(4)各言語にどういう品詞が存在するかを見るためには,当然のことながら,何を単語とするかという問題が解決されている必要がある。それだけで発話できるものは,少なくとも一つの単語を含むといえるから,問題はそれだけでは発話できないがなおかつある程度以上の独立度を保有しているもの(たとえば,日本語のさまざまな助詞など)の扱いである。その詳しい議論は省略するとして,もしそれだけで発話されることはまずないがある程度以上独立的であるものを単語とすると,そのような単語は当然なんらかの品詞に所属していることになるが,一般に,それぞれの品詞に所属するそうした単語の数は,それぞれにつき少数で,かつ,下位範疇にさらに分かれている傾向が強い。…
…
【概説】
[文法とは]
一般に文法と呼ばれているものは,当該の言語における,(1)単語が連結して文をなす場合のきまり(仕組み)や,(2)語形変化・語構成[派生語や複合語のでき方]などのきまり(仕組み),あるいはまた(3)機能語[助動詞・助詞・前置詞・接辞・代名詞等]の用い方のきまり(仕組み),とほぼいえるであろう。 たとえば,(A)〈ねこがねずみを食べた。…
※「助詞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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