ニパウイルス感染症(読み)ニパウイルスカンセンショウ(英語表記)Nipah virus infection

デジタル大辞泉 「ニパウイルス感染症」の意味・読み・例文・類語

ニパウイルス‐かんせんしょう〔‐カンセンシヤウ〕【ニパウイルス感染症】

ニパウイルスによる人獣共通感染症。ヒトでは重篤な急性脳炎、ブタでは呼吸器系症状を引き起こす。自然宿主であるオオコウモリから直接、またはブタを介して、ヒトに感染する。1990年代末に出現し、マレー半島・バングラデシュ・インドで発生が報告されている。感染症予防法の4類感染症、家畜伝染病予防法届出伝染病指定

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

六訂版 家庭医学大全科 「ニパウイルス感染症」の解説

ニパウイルス感染症
ニパウイルスかんせんしょう
Nipah virus infection
(感染症)

どんな感染症か

 日本には存在しない輸入感染症ですが、発症すると重い脳炎を起こします。1998~99年にかけてマレーシアで流行し、265名の患者が発生して105名が死亡しました。この流行は豚での流行がヒトへの感染源になったことが明らかになっています。この時にはシンガポールでも流行し、11名の患者が発生しました。

 その後、インド、バングラデシュでも流行していて、これまでの患者総数は475名で251名が死亡しています。バングラデシュでは、これまでに9回も流行していて、オオコウモリの唾液や尿中に含まれるニパウイルスに汚染した果物からの感染が疑われています。また、患者からの二次感染による患者発生が半数を占めています。

 ニパウイルスは、パラミクソウイルス科へニパウイルス属に分類されるウイルスで、オオコウモリ(ジャワオオコウモリ、ヒメオオコウモリ、コイヌガフルーツオオコウモリ、ヨアケコウモリ、インドオオコウモリなど)がウイルスを保有しています。

 類縁のコウモリがオーストラリア、中国、カンボジア、インドネシア、マダガスカル、パプアニューギニア、タイ、ティモール等に分布していて、実際にウイルスを保有していることもわかっています。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)では4類感染症に分類されます。

症状の現れ方

 4~18日の潜伏期間ののち、発熱、頭痛、筋肉痛などのインフルエンザ様症状で始まり、次いで脳炎症状(眠気失見当識(しつけんとうしき)けいれん)が現れ、1~2日で昏睡(おちい)ります。発症した場合の致死率は50%程度です。感染しても発症しない不顕性(ふけんせい)感染も多いと考えられています。

検査と診断

 臨床症状だけではほかのウイルス性脳炎と区別できません。脳、肺、腎臓脾臓(ひぞう)血液からのウイルス分離やRT­PCRによる遺伝子検出、血清中の特異抗体検出(ELISA法やウイルス中和試験)などの実験室検査により診断できます。

治療の方法

 ウイルスに対する特効薬がないため、対症療法によります。リバビリンが実験的には有効ですが、臨床での治療効果に関しては未知です。

病気に気づいたらどうする

 発症すると重い脳炎を起こしますが、ニパ脳炎が疑われるのは流行地への渡航歴がある場合です。マレーシアでの流行ではブタからの感染が明らかですが、バングラデシュでの流行は感染動物の組織体液、血液との接触によると考えられています。

森川 茂

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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