動物と人間に感染する共通の感染症をいう。初めはanthropozoonosisというギリシア語を人獣伝染病と訳したが、動物の病気が二次的に人間に感染するものを人獣共通伝染病、のちに人畜共通感染症というようになった。現在では人獣共通感染症という呼称が一般的であり、動物由来感染症、動物原性感染症ともよばれる。英語ではzoonosis(ズーノーシス)という。対象動物も飼育動物や獣類だけでなく、いろいろな種類の動物、たとえば鳥類、爬虫(はちゅう)類その他の野生動物や実験動物なども含まれる。また、共通感染症なので、動物が人間から感染させられる被害者になることもある。
おもな人獣共通感染症には次のようなものがある。
(1)細菌性のもの 炭疽(たんそ)、ブルセラ症、結核、サルモネラ症、赤痢、豚丹毒(とんたんどく)、リステリア症、野兎(やと)病、ペスト、パスツレラ症、エルシニア症、鼻疽、カンピロバクター症、レプトスピラ症など。
(2)ウイルス性のもの 狂犬病、日本脳炎、ニューカッスル病、Bウイルス病、マールブルグ病、ラッサ熱、腎(じん)症候性出血熱、黄熱(おうねつ)、リフトバレー熱、ニパウイルス感染症など。
(3)リケッチア性・クラミジア性のもの Q熱、発疹(ほっしん)熱、ロッキー山紅斑(こうはん)熱、オウム病など。
(4)真菌性のもの 各種の皮膚真菌など。
(5)プリオンによるもの クロイツフェルト・ヤコブ病など。
このほか、寄生虫性の感染症には以下のものがある。
(6)原虫性のもの トキソプラズマ症、アメーバ赤痢、トリパノソーマ症、リーシュマニア症など。
(7)蠕虫(ぜんちゅう)性のもの 肝蛭(かんてつ)症、肺吸虫症、日本住血吸虫症、有鉤(ゆうこう)条虫症、無鉤条虫症、広節裂頭条虫症、トリヒナ症、広東(カントン)住血線虫症など。
(8)外部寄生虫によるもの ハエ幼虫症、疥癬(かいせん)、ニキビダニ症、ワクモ類による刺咬(しこう)症など。
なお、人獣共通感染症のなかでも38種が、共通感染症もしくはその可能性の高いものとして「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成10年法律114号、2003年改正時)に、届出対象疾患として指定されている(日本獣医師会『共通感染症ハンドブック』2004年刊)。
動物から人間への感染を防除するには、病原体、伝播(でんぱ)経路、および感受性を有する宿主などの特性によってそれぞれ対策を異にする。たとえば、動物に対しては、保菌動物の検出、隔離、治療、消毒などの処置とともに、ワクチンによる予防接種があり、とくに海外からの侵入を検疫などにより防止し、伝播にかかわるネズミや節足動物を駆除することが重要である。一方、人間に対しては、予防接種、衛生教育、情報交換などを徹底する必要がある。
[本好茂一]