改訂新版 世界大百科事典 「ノーバト」の意味・わかりやすい解説
ノーバト
nobat[アラビア]
中世イスラム世界の宮廷で抱えられていた儀礼用の楽隊。ナウバnawbaともいう。ナッカーラ,タブル(大太鼓),スルナイ,ナフィールなど大音響を発する打楽器と管楽器から成る野外用の合奏を行う一種の軍楽隊である。城門の屋上からイスラム教徒の祈りの時刻を知らせたり,貴人の到着を合図して演奏し,またスルタンの行列を先導したりした。それ以上に施政者の威厳と支配権を領内にあまねく知らしめるという象徴的な機能をも果たした。かつてイスラムの影響が及んだ地域(北アフリカから東南アジアまで)に広く存在し,ノーバトの呼称以外に,ノーバト・ハーネ,タブル・ハーネ(インド,パキスタン),ナッカーレ・ハーネ(イラン),メヘテル・ハーネ(トルコ)などとも呼ばれた。
なおアラビア語でナウバは〈順番〉を意味するが,中世アラブ世界の室内の古典音楽の大規模な合奏形式をも意味し,今日でもマグリブ地方ではその伝統が生きている。
→トルコ[音楽]
執筆者:柘植 元一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報