語義上は打って鳴らす楽器を意味するが,振り鳴らしたり,こすり鳴らしたりするものも含めた総称である。打楽器は人間の歴史が始まって以来の最も古い音具に属し,労働,祭事,戦いの前後,狩猟,踊りなど,信号やコミュニケーション,また自己表現の道具として重要であった。人間はまずはじめに肉体を楽器とした。体をゆすったり,手でたたいたり,こすったり,大地を踏み鳴らしたり,さまざまな音を発音させた。さらに音のするものを体に取り付けたりした。このようにして人間は豊かな創意をもって多種多様な打楽器を創ってきた。素材もさまざまで,大きさ,深さ,形なども用途に応じたものが作られた。形状は板状,棒状,管状,球状,容器状,円盤状,円筒形,壺形,三角形,四角形,六角形,八角形などがある。大きさは鈴の小さなものから直径120cm以上の銅鑼(どら)類,さらに,ドラム類では直径300cm以上の巨大なものまである。革の裏面に響線を付けたもの,打面に米と墨を練り合わせたものを塗って音質に変化をつけたものなどもある。
分類方法もさまざまだが大部分の打楽器は体鳴楽器と膜鳴楽器に分類できる。
(1)体鳴楽器 楽器自体の振動によって音を発する。(a)明確な音程のあるもの マリンバ,木琴,鉄琴ないしメタロフォン,ビブラフォン,チェレスタ,ハンドベル,チューブ・ベル,スチール・ドラム,ゴング,青銅製鐘。(b)不確定な音程のもの トライアングル,シンバル,タムタム,カウベル,クラベス,木魚,樽,むち,鳴子,ウッド・ブロック,ルーラ(1本または束になっている小枝のむち),鈴類,カスタネット,メタル・カスタネット,マラカス,キハダ,グイロ,ラットルなど。
(2)膜鳴楽器 張られた膜の振動によって音を発する。(a)明確な音程のあるもの ティンパニ。(b)不確定な音程のもの 小太鼓,テナー・ドラム,ベース・ドラム,トムトム,ボンゴ,コンガ,ティンバレス,タンバリン,団扇太鼓,楽太鼓,締太鼓,小鼓,大鼓,桶胴など。
なお管弦楽などでは呼笛,サイレン,自動車警笛などの気鳴楽器も打楽器奏者の分担になる場合がある。
打楽器類の響きとリズムはさまざまな民族音楽の特色を鮮明に表す。東南アジアでは10世紀ころから銅鑼やメタロフォンによる合奏があった(ガムラン)。インドでは特有の太鼓によるリズム大系が考えられ,西洋音楽に多大な影響を及ぼした。中国では古来金属打楽器の種類が多く,かん高い響きを創り出している。日本では神前・仏前において打ち物はつねに重要な役割を果たし,とくに太鼓は種類も多くリズムも多彩で〈間〉のとり方は独特である。アフリカの打楽器は太鼓類が多く,太鼓によるコミュニケーションはたいへんすぐれたものである。西洋における主要な打楽器の多くは東洋から取り入れられた。管弦が主体であったオーケストラに早くから加わったティンパニにしても東方から輸入したものであった。20世紀に入り管弦楽曲に民族音楽の影響が入り,多くの打楽器が加えられるようになった。さらにストラビンスキーによる斬新なリズムと音響は新しい活力を与えた。バレーズは騒音も整えることで音楽に成りうるとして打楽器だけの《イオニザシヨンIonisation》(1931)を作曲した。ケージ,ハリソンLou Harrison(1917- )らが打楽器を中心に新しい音楽を創り始め,さらにヨーロッパではメシアン,シュトックハウゼンらも打楽器で独自の世界を開き,西洋の音楽芸術に新しいジャンルを形成するほどになっている。
執筆者:有賀 誠門
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… これらは,現在までに発見された限られた考古学的資料に基づいて推定されたものなので,今後,新しい資料の発見によって変わりうるものである。それでも大きくみれば,人類の最初期に現れた楽器は打楽器に属するものであり,つぎに笛,太鼓,木琴と続いて,弦楽器は最後に作られたものといえそうである。また,現在世界中で使われているほとんどの楽器の直接の祖型は,紀元後,すなわち人類の歴史からすればごく最近に完成されたものである。…
※「打楽器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新