改訂新版 世界大百科事典 「ナッカーラ」の意味・わかりやすい解説
ナッカーラ
naqqāra[アラビア]
西アジアの小型の鍋形締太鼓。胴は金属あるいは木や土製で,1枚の革を張り,紐で締める。普通1対で使われ,2個のサイズは多少違えてあって音に高低をつけるが,決まった音高はない。1対を木枠に入れたりつないだりして,2本の細い棒(桴(ばち))で打つ。おもに合奏で用いる。
トルコでは伝統的軍楽の中で2個を結んでつなげたナッカラnakkaraを左肩と腕でささえて持ち,2本の細い棒で打つ。この奏者のことをナッカラゼンnakkarazenと呼ぶ。また同種の太鼓で大型のものをやはり軍楽の中で用いるが,キョスkösと呼ぶ。これは銅製の鍋形の胴に革を張った締太鼓で,2個一組のものを先端にボールの付いた2本の棒で打つ。円陣で演奏するときは楽隊の中央に置かれるが,行進する場合は馬の背にふりわけて載せられる。昔は小さいものは馬,中くらいはラクダ,最大のものは象で運ばれたといい,おもにスルタン直属の軍楽隊でのみ用いられた。西洋のティンパニの元祖である。またトルコのスーフィーの宗教音楽や伝統的芸術音楽では,ナッカーラと同種の太鼓をクデュムkudümと称する。
ナッカーラは13世紀に地中海やバルカン半島からヨーロッパに広まり,また貿易路を通ってインドまで達し,ナーガーラーnāgārāなど鍋形太鼓の名称となっているが,とくにインドではいろいろの形の太鼓にもこの語の変形の名称をつけ,混乱がみられる。
執筆者:小柴 はるみ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報