バナジウム(読み)ばなじうむ(英語表記)vanadium

翻訳|vanadium

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バナジウム」の意味・わかりやすい解説

バナジウム
ばなじうむ
vanadium

周期表第5族に属し、バナジウム族元素の一つ。原子番号23、元素記号V。1801年メキシコの鉱物学者デル・リオAndrés Manuel del Rio(1764―1849)は鉛鉱石から新元素を発見し、エリスロニウムerythronium(赤い元素の意)と命名したが、のちに誤認であるとして取り消した。1830年スウェーデンのセフストレームNils Gabriel Sefström(1787―1845)はスウェーデン産鉄鉱石から化合物がさまざまな色を呈する新元素を発見し、スカンジナビアの愛と美の女神バナディスVanadisからバナジウムと命名した。同年ドイツのウェーラーはエリスロニウムとバナジウムが同一元素であることを確認した。

 バナジウムは堆積(たいせき)岩に広く分布し、地殻中の存在度は比較的高いが、富化鉱床は少ない。石炭、石油に含まれ、ホヤ類の血液細胞にも存在する。バナジウム酸塩を還元して得られる単体金属は銀白色であるが、不純物の除去が困難であり、性質も不純物によって大きく影響を受ける。フッ化水素酸以外の非酸化性酸には侵されないが、酸化性酸、アルカリには溶ける。空気中で加熱すると、褐色灰色黒色、暗青色、橙赤(とうせき)色と変化して酸化バナジウム(Ⅴ) V2O5にまで酸化される。延伸性、機械的強度を増加させる合金鋼材料として利用される。酸化数+Ⅱから+Ⅴまでの化合物が多数知られているが、酸化状態および結合状態によってさまざまな色調を呈する。

[岩本振武]



バナジウム(データノート)
ばなじうむでーたのーと

バナジウム
 元素記号  V
 原子番号  23
 原子量   50.9415
 融点    1890℃
 沸点    3400℃
 比重    6.11(19℃)
 結晶系   立方
 元素存在度 宇宙 900(第26位)
          (Si106個当りの原子数)
       地殻 135ppm(第18位)
       海水 2.5μg/dm3

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バナジウム」の意味・わかりやすい解説

バナジウム
vanadium

元素記号V,原子番号 23,原子量 50.9415。周期表5族元素。天然にはカルノー石,パトロナイトなどとして産出する。岩石中に広く分布し,地殻における存在量は 135ppm,海水中の平均濃度は 2μg/l 。海洋生物,特にホヤ類中に著しく濃縮されていることが知られている。単体は銀白色の金属で,高品位のものは展延性がある。単独で用いられることはほとんどなく,特殊鋼や強力チタン合金などの添加元素として用いられ,合金の性質を改善する効果が大きい。融点約 1700℃,比重 5.98。塩酸,冷硫酸に不溶,熱硫酸,フッ化水素酸,硝酸に可溶。酸化数4,5の化合物が安定である。モリブデン-バナジウム鋼,クロム-バナジウム鋼などの高張力鋼の製造に用いられる。

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