日本大百科全書(ニッポニカ) 「パーラ」の意味・わかりやすい解説
パーラ
ぱーら
Nicanor Parra
(1914―2018)
チリの詩人。チリ大学で数学と物理学を学び、後に理論物理学を講じる。1937年に処女詩集『無名詩集』を出したのち、第二詩集『詩と反詩』(1954)で一躍有名になる。伝統詩に口語とシュルレアリスムの要素を加味した「反詩」により、現代社会を逆さにみることで、その虚偽と醜怪さを暴くとともに、欲望に満ち、機械や「現代社会の諸悪」に包囲された人間を戯画化した。その後の作品には、チリの民族舞踊のリズムを取り入れた『長いクエカ』(1958)や『サロンの詩』(1962)、そして『ロシアの歌』(1967)、『教授たち』(1971)などがある。個人主義を標榜(ひょうぼう)する彼の飄々(ひょうひょう)とした詩風は、パブロ・ネルーダの『気まぐれ詩集』に影響を与えた。1973年に始まるピノチェト軍事政権期も国内に留まり、『エルキのキリストの垂訓と説教』(1977)、『政治詩』(1983)などを出す。また1990年代には『禿(は)げと闘う詩』(1993)、『聖家族のラップ』(1998)を発表する一方、シェークスピアの『リア王』を翻訳するなど演劇にもかかわった。1991年にフアン・ルルフォ賞受賞。
[野谷文昭 2018年2月16日]
『内田吉彦訳『ニカノール・パラ 現代詩集』(『世界の文学37』所収・1979・集英社)』