ファントマ(その他表記)Fantômas

改訂新版 世界大百科事典 「ファントマ」の意味・わかりやすい解説

ファントマ
Fantômas

フランス映画。1913年から14年まで製作された神出鬼没の怪盗ファントマを主人公とした連続活劇。ピエール・スーベストルPierre Souvestreとマルセル・アランMarcel Allainの新聞連載小説に基づくルイ・フイヤード監督作品。《ファントマ第1編・ベルタム事件》《ファントマ第2編・黒衣の人》《ファントマ第3編・不思議な指紋》《ファントマ第4編・仮面舞踏会の悲劇》《ファントマ第5編・偽りの長官》の5編からなり,さらに第1編が3話30場,第2編が4話46場からなるという形式のシリーズで,〈もっともおどろくべき冒険,もっとも予期できない突発事件,もっともおそろしい犯罪,もっとも複雑な葛藤(かつとう),そして自由と詩の大きな息吹き〉が当時のフランスのシュルレアリストを熱狂させ,詩人ロベール・デスノスは次のようなファントマ賛の詩を書いた。〈巨大なその影はのびる/世界の上にそしてパリの上に/沈黙のなかから浮かびでる/灰色の目のこの亡霊はなにものか?/ファントマよ それはお前か?/屋根のうえに立ちあがるのは?〉(飯島正訳)。フランスのみならず,全世界でヒットし,とくにアメリカの連続活劇の隆盛に大きく貢献した。1932年にパウル・フェヨス監督,47年にジャン・サッシャ監督,49年にロベール・ベルネー監督,64-66年にアンドレ・ユヌベル監督によるリメークがある。なお,Fantômasは正しくはファントマスと発音する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のファントマの言及

【活劇映画】より

…〈活劇〉という語が用いられ始めたのはこのころである。さらに15年,フランスの《ファントマ》やアメリカの《マスター・キー》《名金》などの連続活劇がヒットして,多くの模倣作品を生み出すとともに,尾上松之助映画の絶頂期をもたらした。活劇熱の現れは,演劇と追跡・乱闘シーンの映写とをつないだいわゆる〈連鎖劇〉の流行にもうかがえる。…

【連続活劇】より


[連続活劇の誕生と隆盛]
 アメリカでは20世紀初めの数年間,〈ニッケルオデオン〉と呼ばれた低料金の大衆的な映画館と一流映画館が共存し,大衆的な映画館では1本の大作映画を週ごとに分割して上映する習慣のあったことが,〈連続映画〉の誕生に一つの役割を果たしたともいわれている。登場人物は共通しているが,物語はかならずしも連続していないこのシリーズものは,1908年ころからアメリカのエッサネー社の《ブロンコ・ビリー》シリーズをはじめフランスやドイツでもつくられていたが,いわゆる連続映画あるいは連続活劇として人気をよんだ作品は,フランスで流行した大衆的な探偵小説シリーズによったビクトラン・ジャッセVictorin Jasset(1862‐1913)監督の《ニック・カーター》(1908),《ジゴマ》(1911)やルイ・フイヤード監督の《ファントマ》(1913)などで,なかでも〈小市民的ロマン主義〉を反映しているといわれた《ファントマ》の成功は,ヨーロッパの各国をはじめとくにアメリカに決定的な影響をあたえた。 1913年以後,連続活劇はアメリカで急速に発達する。…

※「ファントマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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