手指末節部の手掌側には種々の紋理(理とは細かいあやの意)を認めるが、その紋理、もしくはこれを押捺(おうなつ)して得られる像を指紋という。この部分の皮膚を組織学的にみると、まず、いちばん上を表皮が覆い、すぐその下には真皮(汗腺(かんせん)、血管、神経等の分布する組織)がある。表皮と真皮の境界部は波状を呈し、その山の部分は表皮層に突出した形状をなしており(この突出部を真皮の乳頭層という)、この部に相当して表皮にも明らかな高まりがみられる。これを皮膚小稜(しょうりょう)、もしくは乳頭隆線(隆線)という。皮膚小稜は、汗孔という汗腺の出口が無数に並んで形成されたものであり、この皮膚小稜間の谷の部分は皮膚小溝とよばれる。皮膚小稜がこのように独特な紋理を描くのは手指の掌側末節部だけに限られているのではなく、その他の手掌面や足蹠(そくしょ)部(足の裏)にもみられ、それぞれ手掌紋、足蹠紋といわれている。また、指紋は人間に特有なものではなく、サルなどでも、やや複雑な指紋がある。指紋は下等動物になるほど漸次単純化し、有袋目に属する哺乳(ほにゅう)動物では簡単な線状指紋が認められる程度である。指紋の下部には神経終末装置に富む触覚小球(指小球)といわれるものがあり、この部分の触覚はとくに鋭敏である。しかも指紋のしわは、物をつかむ場合には摩擦を大きくする働きをもっている。つまり、滑り止めの役割を果たしているわけである。
[古川理孝]
指紋が法医学や警察鑑識の分野で研究されるようになったのは、それが終生不変・万人不同で、その個人識別上の価値が非常に高いためである。指紋の研究は1684~86年ころ英国王室医科大学のグルーN. GrewやビドルーG. Bidloo、イタリアの解剖学者マルピーギM. Malpighiらによって行われているが、指紋に個人差のあることをみいだし、簡単な分類を行ったのはプルキンエJ. E. Purkinjeというチェコの生理・解剖学者が最初である(1823)。
ところで、このような皮膚紋理の存在はすでに有史以前から知られていたと思われ、種々の遺石や壁画類のなかに、その形がみいだされる。また、バビロニアやアッシリアの時代には、個人の異同を識別する目的で指紋を利用していたという研究も出されている。さらに、日本や中国では、古くから拇印(ぼいん)とか爪印(つめいん)と称し、証文等に指先の印象を押す習慣があった。
プルキンエが簡単な分類を行ったあとの1880年、指紋が終生不変であることをイギリスの医師フォールズH. Fauldsと、インド・ベンガル州の収税官ハーシェルW. Hershelがみいだした。両者は、それぞれイギリスの科学雑誌『ネイチャー』Natureに、その研究結果を発表(前者は、同年10月28日、後者は11月22日)している。これによって、指紋の個人識別的価値が初めて学問的に証明されたといえるわけである。とくにフォールズは、1874年(明治7)に来日し、東京築地(つきじ)病院に勤務していた医師で、当時の日本で行われていた拇印や爪印の習慣をみて指紋の研究に着手したともいわれている。その後、1888~91年ころにイギリスのゴルトンF. Galtonによって指紋の終生不変・万人不同の事実が確認された。ゴルトンによると、2個の指紋が一致する可能性は640億回に1回であり、10指すべての指紋が一致する可能性は、さらにその10乗回に1回とのことである。ついでその業績を基礎として、同じくイギリスのヘンリーE. R. Henryが、インドの警視総監としての立場から、1897年、インド全域の警察に指紋法(指紋の特性によって個人の異同を識別する方法)を採用させている。ヘンリーは、1901年にロンドンの警視総監補となったのちにも、さらに指紋法に改良を加え、現在、イギリス、アメリカをはじめ、多くの国々が採用しているヘンリー・システム(ゴルトン‐ヘンリー・システムともいう)を確立した。なお、この前後にはアルゼンチン・ラプラタ州の警察鑑識局長であるベセッチJ. Vucetichによるベセッチ・システム(南アメリカの各国が採用)、ドイツのハンブルク警視総監であるロッシャーT. Roscherによるロッシャー・システム(ハンブルク・システムともいう)など、多数の指紋法が考案されている。
日本では1908年(明治41)4月に刑法を改正し、累犯加重の制度を定めたが、これには犯罪人の正確な異同識別が必要であり、その結果、当時としては新しく、しかもより簡便なロッシャー・システムが採用され、監獄(司法省)において実施されたのが、日本における指紋法の先駆けである。その後1911年から警察においても同様のロッシャー・システムによる指紋法が実施されるようになったが、現在はヘンリー・システムとロッシャー・システムの両方を取り入れた日本式指紋法(十指指紋法)が完成されている。
[古川理孝]
指紋はその紋様から、弓状紋、蹄状(ていじょう)紋、渦状(かじょう)紋のほぼ3種類に大別できる。
(1)弓状紋 一側より生じた隆線が反対側へ流れ、その隆線の流れが逆流することのないものをいう。弓状紋は、さらに、隆線の流れが比較的なだらかな「普通弓状紋」と、中央部で山形に突起を形成する「突起弓状紋」とに区別される。
(2)蹄状紋 一側から生じた隆線が指の先端部に向かって斜めに進み、ついで蹄形(ウマのひづめの形)をなして同一側へ還流するものをいう。蹄状紋は隆線が母指側から母指側へ還流する「甲種蹄状紋」と、小指側から小指側へ還流する「乙種蹄状紋」に区別される。なお、蹄状紋には、隆線で形成される三角州(デルタ、三叉(さんさ)ともいう)がその流れの反対側にかならず1個認められるはずである。
(3)渦状紋 隆線のうち少なくともその1本が隆線の生じた側に彎曲(わんきょく)した凸部を向けているもので、三角州を2個以上有する指紋の総称である。渦状紋は、中心部が円ないし楕円(だえん)形の渦状線で形成されるもので、「狭義渦状紋(純渦状紋)」や、中心部が同様の環状線で形成されている「環状紋」等が典型例である。このほか、渦状紋には、蹄状紋に酷似しているが、蹄線のなかに少なくとも1本の逆向きの蹄線を有する「有胎(ゆうたい)蹄状紋」、2個の蹄状紋が頭部を逆位にして組み合わさった形の合成紋で、2個の蹄状を形成する隆線が両方とも同一方向に流れる「二重蹄状紋」、隆線がおのおの反対方向に流れる「双胎蹄状紋」のほか、蹄状紋か渦状紋の同種紋様あるいは異種紋様が2個以上混在して形成される「混合紋」等が含まれる。
また、ごくまれには、弓状紋、蹄状紋、渦状紋のいずれにも属さない異常な形状の指紋もある。これを変体紋といい、たとえば隆線が点や短線だけの「無体紋(無指紋)」はこれに含まれる。
[古川理孝]
前述のごとく、かつて日本の警察で採用した十指指紋法はロッシャー・システムであり、その伝統は近年まで受け継がれてきたが、保管されている指紋資料が膨大になったことなどから、1970年(昭和45)にそれまでの指紋法が大改善され、新たに第1分類としてヘンリー・システムが取り入れられ、第2分類として従来どおりのロッシャー・システムによる分類方式がとられるようになった。第1分類とはヘンリー・システムの大分類を修正したもので、さらに第1次分類と第2次分類の二段階に分けられている。第1次分類とはまず10指のなかに1指でも欠如紋(手指末節部の大部分が欠如しており、分類に必要な紋様が欠けているもの)がある、他の指にいかなる指紋があってもその10指指紋は「欠如紋があるもの」という種別(順位1)に分類される。次に10指のなかに1指でも損傷紋(指紋のなかに後天的な理由で永久的な損傷があり、後記第2分類の1~9までの指紋価がつけられないもの)があると、その10指指紋は「損傷紋があるもの」という種別(順位2)に分類される。この場合、10指中に第1順位の欠如紋と第2順位の損傷紋を有するときには、先順位に従って欠如紋として分類される(以下順位が下がっても同様の規則に従う)。第三は「不完全紋(一時的な創傷等があり、後記第2分類の1~9までの指紋価がつけられないもの)があるもの」、第四は「変体紋があるもの」、第五は「渦状紋があるもの」、第六は「甲種蹄状紋があるもの」、第七は「弓状紋があるもの」、第八は「乙種蹄状紋があるもの」というように8種類(順次N・S・D・C・W・R・A・Uと表現)に分類される。第2次分類とは、前述のごとく8種類に分類された10指指紋について、その分類の基準となった指紋が10指のどこにあるかによって分類するもので、これにも詳細な分類規準や表現方法が定められている。
次に第2分類とは1911年以来行ってきた方法で、ロッシャー・システムを一部修正したものであるが、左右10指分の指紋にそれぞれ1~9までの指紋価(指紋番号ともいう)が与えられる。まず弓状紋の指紋価を1、甲種蹄状紋を2、頻度の高い乙種蹄状紋と渦状紋は規定の方則に従って、前者は4種(指紋価は3~6)、後者は3種(指紋価は7~9)に区分される。なお欠如紋は0、変体紋は、損傷紋は、不完全紋は?と記録する。
10指分の指紋は所定のカードに採取し、それぞれの分類法による記号や数値がつけられ、さらに氏名、生年月日、その他必要事項が記入されて、指紋原紙および指紋票として整理・保管される。この場合、第1分類では第1次分類で8種類、第2次分類で1023種類、第2分類では左手だけでも00000~99999の10万種が分類でき、これに右手の分を加えると100億種以上もの分類が可能といわれている。このように10指すべての指紋を分類・整理する方法を「十指指紋法」といい、犯罪者等の異同識別には絶大な威力を発揮する。しかし犯罪現場等には10指分すべての指紋が残されているわけではなく、実務上はたった1個の指紋からでも犯人を割り出すことが必要とされる。このため、ベルギーの犯罪学者ストッキーE. Stockisは1907年ころに「一指指紋法」を企図し、10年ころからはスペインの大学教授オロリーツJ. Olórizもその必要性を唱えたといわれている。そして、1914年になると、両者のほかにデンマークのコペンハーゲン警視総監ヨルゲンセンH. Jörgensenが、それぞれ三様の「一指指紋法」を発表した。その後は続々と各国で創案、改良され、実用化されていくが、なかでも、1931年のロンドン警視庁指紋局長バトレーH. Battleyによる「バトレー法」は有名で、現在でも、これを参考にしている国々は多い。日本では、1956年(昭和31)に「日本警察庁一指指紋法」が完成されたが、それ以前は、各都道府県において独自のくふうがなされていたようである。
なお、その後コンピュータによる指紋自動識別装置も開発され、実用化されている。
[古川理孝]
指紋を採取するには、ガラス板上に指紋用黒インキ、もしくは印刷用インキ等をローラーで薄く均一に延ばし、その上に指頭を押し付けてインキを付着させ、紙面に転写する方法が一般的である。しかし、このほかにも種々の方法が考案、改良されている。また、採取方法には、単に指を押し当てるだけの指圧法と、指を左右一方向に回転させてとる回転法(ゴールトンの創案)とがある。前者には凹面の指型を用いる方法もあるが、これは乳幼児や死体の指紋採取には便利である。これに対して犯罪現場等における指紋は、通常、汗や皮脂等の分泌物が印象されたものであるため、肉眼的に識別できるとは限らない。これを潜在指紋といい、アルミニウム粉末や炭末等を散布して指紋部に付着させ、その後、余分な粉末を軽く掃いて除去すると指紋が顕出する。これをゼラチン紙に転写すれば指紋が採取できる(顕出期間は約半年)。このほかにヨード蒸気を当てる方法、硝酸銀溶液やニンヒドリン溶液を噴霧する方法等もあるが、顕出期間は数か月から数日と短くなる。一般に陶器、ガラス、金属等の平滑なものからは採取しやすく、表面の粗な紙片、布片、木材等からは採取しにくいといわれる。
[古川理孝]
人類学的、遺伝学的研究にも指紋はかなり応用されている。民族によって各紋様の出現率に差があり、大きく分けて、東洋系や南洋系には渦状紋が多く、ヨーロッパ系には弓状紋や蹄状紋が多いといわれている。この民族特有の分布は、2種類の紋様の比をとることによって表すことができる。まず弓状紋をA、甲種蹄状紋をR、乙種蹄状紋をUとし(RとUの区別は古畑種基(ふるはたたねもと)による。ゴールトンは両者を区別せずL)、渦状紋をWとした場合、古畑指数はW/R+U、ゴールトン指数はA/L、ダンクマイヤーDankmeijer指数はA/Wで表される。古畑指数によって各民族の紋様の傾向をみると、日本人=ほぼ80前後、中国人=100以上、イタリア人=60~70、アメリカ人=50前後、ドイツ人=45~50、イギリス人=35~60となる。なお、古畑指数によるとアイヌは50前後といわれ、指紋からみると欧米人に近い特徴を有する民族であることが認められる。
指紋は胎生18週くらいでその原形がほぼ完成し、以後、発育に伴って隆線の太さ、間隔は大きくなっていくが、紋様の形状は変化せず、終生不変・万人不同といわれている。しかし、指紋は近親間での類似性が高く、その遺伝支配を証明する研究も数多く行われている。この点については親子・兄弟間の指紋を比較してみるだけでも、ある程度は納得がいくはずである。すなわち、弓状紋の多い両親からは弓状紋の多い子が、蹄状紋の多い両親からは蹄状紋の多い子が、そして渦状紋の多い両親からはやはり渦状紋の多い子ができ、また、双生児(とくに一卵性)の場合は、他の兄弟よりも紋様の類似性が高いということなどを念頭に置いてみるとよい。このような指紋の遺伝学的研究は1920年代以降になって盛んになったものである。たとえば、隆線数、指紋の幅や高さについて親子の遺伝関係を調査したもの(ボンヌビーK. Bonnevie、1924)、隆線の流れ方向について遺伝性を調べたもの(グリューネベルクH. Grüneberg、1929)など、多数の報告が出されている。とくに松倉豊治は指紋の基本型として弓状紋(A)・蹄状紋(L)・渦状紋(W)、中間型として弓蹄紋(AL)・蹄渦紋(LW)・弓渦紋(AW)を考え、親子の世代を経るにしたがって簡単な構造から複雑な構造へ、またはその逆方向へと変異し、これらの指紋型には環状の移行関係(AALLLWWAWA)が成り立つものとみなした。そしてこの遺伝学的解析を容易にすべく、A=6、AL=12、L=18、LW=24、W=30、AW=0なる数値を与え、その10指分の合計値を生物学的指紋価と称し、これに基づいて親子間の遺伝関係を説明した(1952)。松倉はさらに、隆線数についても同様の遺伝関係を調べ、これも前者の法則と完全に一致することを証明した(隆線数の親子間遺伝法則)。かつては法医学の分野において、このような研究も親子鑑定などに応用されたが、DNA鑑定などが発達した現在では、その意義は低下している。
[古川理孝]
『岡田鎭著『指紋』(1958・長野市・令文社)』▽『光末義著『指紋・その理論と実際』(1973・近代警察社)』▽『上野正吉著『新法医学』(1977・南山堂)』▽『藤原正一著『指紋』(1978・長野市・令文社)』▽『松倉豊治編著『法医学』増補第2版(1979・永井書店)』
指や手のひら,足底の皮膚に浮きでるように走るたくさんの線状の隆起を皮膚隆線または単に隆線といい,隆線上には汗腺が並んで開口している。この隆線が指頭でつくる紋理(紋様)またはこの紋理を捺印した像を指紋という(ちなみに手のひらや足底にみられる紋理はそれぞれ掌紋,足紋といわれる)。指紋は万指不同,終生不変であるので,身元不明者の身元確認,犯罪者の異同(個人)識別などに応用されている。
古くから指頭の印象をもって有力な証拠とするならわしはあったが,これが科学的に研究されるようになったのは19世紀後半以降のことである。指紋研究のパイオニアになったのは2人のイギリス人である。その一人は1874年から13年間東京築地病院の外科医であったフォールズHenry Fauldsである。彼は大森貝塚から出た土器に残されていた指紋の跡に興味をもち,以後研究を続けて,指紋が犯罪捜査に役立つこと,また指紋が親子ではよく似ていることなどを発見した。彼はこの内容をイギリス本国の科学雑誌《Nature》に投稿し,それは80年の10月28日号に掲載された。これがきっかけとなって1月遅れの11月25日号の同誌に指紋研究を発表したのが,もう一人のパイオニア,ハーシェルWilliam Hershel(1833-1917)である。彼は1858年インドのベンガル地方で民政事務を担当していたとき,恩給受給者に指紋を押させて個人識別を行い,二重払いの防止に成功し,77年には指紋の個人識別上の重要性について,本国政府に進言もしていたのである。その後F.ゴールトンらによって指紋の研究や分類が行われ,ロンドン警視総監のヘンリーEdward Richard Henry(1850-1931)によって指紋が初めて犯罪調査に用いられたのは1901年のことである。なお日本の警察で指紋が利用されるようになったのは1908年からである。
指紋は指紋用黒色インキをつけた指頭掌面で上質紙上を軽く圧迫しながら十分に回転させると採れる。犯行現場に残された指紋を現場指紋といい,触れた器物がほこりをかぶっていたり,粘土のように軟らかいときには容易に認めることができるが,多くの場合は肉眼で見えない。目に見えるようにする処理が必要であり,次のようなものがある。(1)粉末法 アルミニウム粉末,白粉,炭末などをふりかける。顕出可能期間はおよそ半年。(2)蒸気法 ヨウ素などを用いる。顕出可能期間は2~3日。(3)液体法 ニンヒドリン,硝酸銀などを用いる。顕出可能期間は前者では約2ヵ月,後者ではおよそ7日。
指紋は弓状紋,蹄状紋,渦状紋および変体紋に分けられる。(1)弓状紋arch(Aと略記)は,隆線が指頭の一側から始まって弓状をなして他側に走り,逆流するものがまったくないものをいう。普通弓状紋と中心部に突起のある突起弓状紋があり,指紋番号は1。(2)蹄状紋loop(Lと略記)は,同一方向に流れる蹄状線(指頭の一側から始まり,馬蹄形をなしてもとの側にもどる隆線)で形成され,その流れの反対側にのみ三角州deltaがあるものをいい,甲種蹄状紋(橈(とう)側蹄状紋radial loop,Rと略記)と乙種蹄状紋(尺側蹄状紋ulnar loop,Uと略記)に分ける。甲種蹄状紋は,蹄状線が母指側に始まり母指側にもどるものをいい,指紋番号は2。乙種蹄状紋は,蹄状線が小指側に始まり小指側にもどるものをいい,指紋番号は3~6。(3)渦状紋whorl(Wと略記)は,紋理の左右に1個ずつ三角州があるものをいう。中央が渦巻状またはらせん状のもの(純渦状紋または狭義の渦状紋),中央が円形または楕円形のもの(環状紋),二つの蹄状紋が互いに左右から組み合ったような形を呈し,蹄状線がともに同一側に流れるもの(二重蹄状紋),互いに反対側に流れるもの(双胎蹄状紋),蹄状紋に似ているが,蹄状線内に弧状線またはかぎ状線があり,その凸部が蹄状線の口と相対しているもの(有胎蹄状紋),2個以上の紋様で1個の指紋を形成しているもの(混合紋)があり,指紋番号は7~9。(4)変体紋accidental(Cと略記)は,弓状紋,蹄状紋,渦状紋のいずれにも属さない指紋をいう。隆線が粒状または短棒状で乱雑に配置された無指紋などもこれに入る。
所定の用紙に被疑者の氏名,身元などを記入し,被疑者の指紋を押捺,指紋番号を書き入れて作成した資料を指紋原紙という。各指の指紋番号を,示指,中指,薬指,小指,母指の順に左から右へ並べて,左手を分子(上欄),右手を分母(下欄)として,5けたの分数を作り,これをその人の十指分類番号とし,この番号によって指紋原紙を分類する。分類番号は別人で一致することもあるから,最終的には指紋細部の特徴点によって決定する。実際に,犯罪現場に残されている指紋は10指とは限らず,少数のことがほとんどである。このため,1本の指からでも個人識別ができるようにしたのが一指指紋法である。上述の十指指紋法の分類に準じて分類し,さらに種々の特徴により弓状紋は第4分類まで,蹄状紋は第5分類まで,混合紋を除く渦状紋は第6分類まで,混合紋は第2分類まで細分類されている。変体紋は細分類はない。
2個の印象が同一の指紋であるかどうかを決定するには,まず両者に共通な特徴点を探す。特徴点とは隆線の断端,分岐,三角州形成,短棒状または点状隆線,屈曲などで,特徴点が10~12個以上合致すれば同一の指紋とみてよい。非常に珍しい形の指紋では,8個以上一致すれば同一とみなしてよいと考えられている。このような同定法は指紋以外の隆線紋理の同定の場合にも行われる。
指紋が遺伝することに疑いはないが,その遺伝形式は単純ではない。松倉豊治は1952年,指紋型相互間に一連の連続変異があるものとの見地から,弓状紋A,蹄状紋L,渦状紋Wの3基本型と弓蹄紋AL,蹄渦紋LW,弓渦紋AWの3中間型の計6型に分類し,それぞれにA-6,AL-12,L-18,LW-24,W-30,AW-0という価を与え,10指合計したものを生物学的指紋価と命名した。そしてこの価を9個の遺伝子型に区分し,4対の同義遺伝子を想定し,親子の遺伝子型の関係を示した。また,松倉は指紋の隆線数をとくに生物学的な注意を払った方法で数え,10指の隆線数の合計(総隆線数)を9個の遺伝子型に区分し,4対の同義遺伝子を想定した(つまり生物学的指紋価の親子の遺伝子型の関係がそのまま適用される)。これら松倉の発表した法則は実際によく合うので,親子鑑別に用いられている。なお,無指紋は常染色体性単純優性遺伝すると思われる。無指紋様の隆線の乱れが1指または2指以上に部分的に認められることがあり,一般人で0.75%(指の数では0.08%)の頻度であるが,精神遅滞児には非常に多く,人数で28.4%,指の数で4.5%に達する。
執筆者:古屋 義人
指紋はまた,双子などの卵性診断,人種判別にも利用されている。世界の各民族は各指紋型の出現率にそれぞれ特有な相違を示す。弓状紋はいずれの民族でもたいへん少なく,これの比較的多い黒人の場合でも,10本の指に一つ平均もないほどである。渦状紋は東洋系や南洋系に多く,蹄状紋はヨーロッパ系に多い。古畑指数(渦状紋対蹄状紋)は日本人は88前後であるが,朝鮮人,中国人は100以上,ヨーロッパ系は40~50前後である。さらに日本人の指紋型の内訳をみると,男性で弓状紋2%・蹄状紋53%・渦状紋45%,女性で弓状紋3%・蹄状紋57%・渦状紋40%程度である(これから前述の古畑指数と若干異なる数値が導き出されるが,これは資料出所の違いによる)。日本内での地方差があるが,整然とした形では認めにくく,そう著しいものではない。ただしアイヌは弓状紋3%・蹄状紋65~70%・渦状紋25~30%程度の白人的な出現率を示す。
先天性異常では,一見して異常と考えられる紋理の出現や,紋理の形態は異常とはいえないが,正常群との間に統計的に頻度の差がみられ,隆線の形成不全ないし形成異常が認められる。
執筆者:岩本 光雄+古屋 義人
哺乳類にも指紋があり,カンガルー,ネズミ,イタチ,ムササビ,サルの順にだんだんと複雑になり,ウサギ,イヌ,ネコ,タヌキ,クマには指紋はない。ニホンザルやその仲間の指紋は,大部分が原系紋と呼ばれるもので,中心部の隆線が指の長軸にだいたい平行して走っている。チンパンジーのような高等なサルの指紋は,人間の指紋によく似ている。
執筆者:古屋 義人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これを皮膚紋様,皮膚理紋,あるいは皮膚隆線系と呼ぶ。皮膚紋様は,指先(指頭)にある指紋,手のひらにある掌紋(手掌紋),足の裏にある足底紋というように,部分的に分けて観察される。クモザルなどのサルの尾にある皮膚紋様は尾紋と呼ぶことができる。…
※「指紋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
一般的には指定地域で、国の統治権の全部または一部を軍に移行し、市民の権利や自由を保障する法律の一部効力停止を宣告する命令。戦争や紛争、災害などで国の秩序や治安が極度に悪化した非常事態に発令され、日本...
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