プラダー‐ウィリー症候群(読み)ぷらだーうぃりーしょうこうぐん(英語表記)Prader-Willi syndrome

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

プラダー‐ウィリー症候群
ぷらだーうぃりーしょうこうぐん
Prader-Willi syndrome

筋緊張低下(Hypotonia)・知能低下(Hypomentia)・性腺(せん)発育不全(Hypogonadism)・肥満(Obesty)の四つを主徴とする先天性症候群。名称はこの症状を1956年に学会発表した二人のスイス人小児科医、プラダーAndrea Prader(1919―2001)とウィリーHeinrich Willi(1900―1971)にちなんだもので、PWSと略される。主徴四つの頭文字をとってHHHO症候群あるいはH3O症候群ともよばれる。また、プラダー‐ラープハルト‐ウィリー症候群(PLWS:Prader-Labhart-Willi syndrome)、潜伏精巣・低身長症・肥満・軽度精神発達遅滞症候群(cryptorchidism-dwarfism-obesity-subnormal mentality syndrome)も同義である。原因はおもに父親から受け継いだ15番染色体の一部欠失または不活性化による機能不全とされる。生後間もなくから乳児期まで筋緊張低下から全身の筋力が弱く、乳もうまく飲めず哺乳(ほにゅう)困難となって経管栄養が必要となることが多い。筋力は徐々に回復していくが、性器低形成のほか運動・言語・精神の発達の遅れ、多様な行動障害がみられ、肥満と過食による代謝異常から糖尿病を発症することもある。身体的特徴としては、前後に長い頭、短頭や短頸(たんけい)、脳室拡大、アーモンドのような形の眼裂斜視近視、上唇(じょうしん)が薄く口の小さい魚様口唇、歯の萌芽(ほうが)遅延や小歯症、短小な中手足骨などさまざまな異常が認められ、皮膚のメラニン含有細胞の減少や唾液(だえき)分泌量の減少などもみられる。PWSは全体としては発症率の低い症候群で、遺伝性は低く家族発生はまれである。哺乳困難は経管栄養で対応できるが、PWSでみられる過食は中枢神経の異常が原因であるため予防が困難で、根気づよく食事療法を継続する必要がある。

[編集部]

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六訂版 家庭医学大全科 の解説

プラダー・ウィリー症候群
プラダー・ウィリーしょうこうぐん
Prader-Willi syndrome
(遺伝的要因による疾患)

 15q11部分の遺伝子変異による疾患です。通常の染色体分析では欠損部位がはっきりと検出されない微細欠損が多いためFISH法(蛍光色素で標識したDNA断片を使って、その断片に相当するゲノム部位の欠損などを検出する方法)を利用して診断がなされます。

 この症候群は、出生時に筋緊張低下が強いことから気づかれ、発達は遅れがちになります。幼児期より食事量が増え、小児期より肥満傾向が出ますが、手足は比較的細く先細りです。痛みの感じ方が弱く、痛みの訴えも少ないので、周囲の注意が必要です。比較的こだわりが強い性格なので、疾患の特徴をよく理解して養育に関わることも大切です。

 低身長には成長ホルモン治療が考慮されることもあります。性腺機能も低下します。過食は極端な肥満にもつながるので、食事の盛りつけを工夫するなど本人の満足をはかったうえでの食事量のコントロールとともに運動が大切です。

 この疾患の原因は、父由来の遺伝子が発現しないこと(父由来の遺伝子の欠損、父由来の15番染色体が欠失し母由来の染色体が重複したダイソミーなど)によることがわかりました。この疾患と同じ部位に遺伝子の変異がある疾患には、けいれんや発達障害で知られるアンジェルマン(Angelman)症候群がありますが、これは逆に母由来の遺伝子発現がありません。このように親のどちらから由来したかによって遺伝子の発現が違う現象は、ゲノム刷り込み現象(インプリント)と呼ばれます。

古山 順一, 玉置 知子

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