近視(読み)きんし(英語表記)Myopia

精選版 日本国語大辞典 「近視」の意味・読み・例文・類語

きん‐し【近視】

〘名〙 遠くがはっきり見えないこと。また、その目。目の屈折異常の一つで、遠方からくる平行光線が無調節状態の水晶体で屈折されたとき、網膜の手前で像を結ぶので、遠くがぼやけて見える。凹(おう)レンズで矯正する。近眼。近視眼。⇔遠視。〔医語類聚(1872)〕

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デジタル大辞泉 「近視」の意味・読み・例文・類語

きん‐し【近視】

平行光線が網膜の前方で像を結ぶため、遠い所がよく見えない状態。また、その目。水晶体屈折力が強すぎるか、網膜までの距離が長すぎるために起こる。凹レンズで矯正。ちかめ。近眼。近視眼。⇔遠視
[類語]近眼近目

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「近視」の意味・わかりやすい解説

近視
きんし

目の前方無限の距離にある1点から出る光、すなわち平行光線が網膜より前方に結像する目の屈折状態をいう。したがって、近くの物はよく見えるが、遠くの物がぼやけて見える。調節作用を休止したとき、角膜・水晶体からなるレンズ系の焦点距離より眼軸の長さが大きすぎる状態である。

 近視は概念的に、眼軸が正常より長いためにおこる軸性近視と、眼軸の長さは正常であっても角膜や水晶体の屈折力が強すぎるためにおこる屈折性近視とに分けられる。度の強い近視は軸性である。眼軸が長くなる理由は不明で、遺伝的素因の関与が強いと考えられている。小学校低学年から進行し始め、だいたい25、26歳くらいの身体の成長が停止するころに普通は停止する。眼軸の長さは正常では約23、24ミリメートルで、強度の近視になると30ミリメートル以上まで伸びるものもあり、このようになると眼球は突出してくる。屈折性近視は、角膜のカーブが強いときや、水晶体が前方に移動した場合、または虹彩(こうさい)炎のときなどにみられることがあるが、角膜や水晶体の屈折力や眼軸の長さには個人差もあり、軸性近視か屈折性近視か区別するのはむずかしいことが多い。

 近視には、軽度のものから、悪性近視といわれる強度のものまでいろいろある。この近視の程度を表すのにジオプトリー(D)という屈折力の単位を使い、次式で表される。

  D=1/焦点距離(m)
この値が、その目を矯正するための屈折力になる(よく視力が0.2とか0.08とかいうことがあるが、これはその目の屈折力ではなく、視力を表している)。たとえば、焦点距離が50センチメートルの凹レンズで遠点(はっきり見えるもっとも遠い点)が無限遠と一致した場合は、マイナス2Dの近視となる。これに対して50センチメートルの凸レンズの場合は、プラス2Dの遠視となる。

 近視も程度が進むと、いろいろの合併症を伴うようになる。中等度(マイナス3Dからマイナス6D)以上の近視になると、眼軸も延長しているものが多く、眼球が後方に延長してゆくため、眼底に種々の変化が現れてくる。眼底検査をすると、網膜や脈絡膜が引き伸ばされたため、眼底がヒョウの皮のよう(豹紋(ひょうもん)状)に見える。さらに延長されると、白い強膜までも透けて見え、このようになると網膜の機能も低下する。また、視神経の周りでは網膜や脈絡膜の変性がおこり、視神経乳頭の周りにコーヌスconusという灰白色ないし黒色の斑点(はんてん)がみられるようになる。さらに、眼軸が延長するために硝子体(しょうしたい)や網膜の周辺部にも変性がおこり、いわゆる飛蚊症(ひぶんしょう)を訴えたり、網膜に裂孔がおこり、これが原因で網膜剥離(はくり)を起こすこともある。このほか、黄斑部の中心に出血や円孔が発生し、突然視力が低下することもある。これらのように25、26歳を過ぎてもどんどん進行してゆく強度近視を悪性近視ともいうが、矯正には眼鏡よりもコンタクトレンズのほうがよい。手術やレーザー治療で角膜曲率を変えたり眼軸長を短くしたりする方法もある。

 眼鏡を装用しないと日常生活に不便を感じる場合には、眼科医に目の検査を受け、正確な眼鏡を処方してもらってかける。前述のように、近視は近くの物はよく見えるので、程度が軽ければ不便なときや、遠方を見るときのみ装用すればよい。眼鏡の度の検査や合併症の検査などについても、少なくとも年に1回くらいの定期検査が必要となる。

[中島 章]


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家庭医学館 「近視」の解説

きんし【近視 Myopia】

◎軸性近視(じくせいきんし)と屈折性近視(くっせつせいきんし)
[どんな異常か]
 ふつうに見たとき(無調節状態)に、遠くから目に入ってきた光が網膜面の前方に像を結ぶ目の屈折異常です。近いところはよく見えるのに、遠いところはぼんやりとして見えにくくなります。
 これは眼軸(がんじく)(角膜(かくまく)から網膜(もうまく)までの距離)が長いか、角膜や水晶体(すいしょうたい)の屈折力が強すぎるかのいずれかが原因でおこり、前者を軸性近視、後者を屈折性近視といいます。一般に近視と呼ばれているものは、軸性近視をさします。屈折性近視は、円錐角膜(えんすいかくまく)のような角膜の病気や、調節けいれんといった毛様体筋(もうようたいきん)の病気によっておこるものです。
◎近視にも良性と悪性がある
 近視は、その症状のちがいから2種類に大別できます。
単純近視(良性近視)
 小・中・高校在学中に始まって成長期に急速に進行し、成人すると進行が遅くなるものです。大部分の近視はこの良性近視です。
 裸眼視力が0.1以下になることもありますが、めがねやコンタクトレンズで正常の視力に矯正(きょうせい)できます。
病的近視(悪性近視)
 眼軸長延長により眼球の伸展をひきおこし、眼底後極部に変性をきたす近視で、視機能障害(視力低下、視野欠損)をともなうものをいいます。
 原因は軸性近視で、眼軸がかなりのびるために、網膜(もうまく)や脈絡膜(みゃくらくまく)(網膜を栄養する血管の豊富な膜)が引きのばされて薄くなり、ものを見るのに重要な黄斑部(おうはんぶ)に変化がおこります。そのため、裸眼視力も0.1以下で、めがねやコンタクトレンズでは視力がよく矯正できません。硝子体(しょうしたい)も変化するので、網膜剥離(もうまくはくり)や眼底出血をおこしやすく、緑内障(りょくないしょう)の程度も増加します。また、さまざまの視機能障害をともないます。
 病的近視の発生頻度は、あまり多いものではありません。
◎遺伝的素因で近視はおこる
[原因]
 単純近視については、2通りの考え方があります。1つは、眼軸の長さには生まれつきの長短があるという生物学的個体差に起因し、その根底には遺伝的な素因を重視する考え方です。確かに東洋人には近視が多く、近視は、人種や民族でその頻度にかなり差があるのは事実です。
 もう1つは、近いところを見る仕事を続けると、目は常に調節状態にあるため毛様体筋が異常に緊張し、水晶体が肥厚します(調節けいれんという)。この状態が続くと、眼軸がのびて近視がおこるという考え方です。昔は偽近視(ぎきんし)、または仮性近視(かせいきんし)と呼ばれていました。しかし、近くを見る仕事に従事していない人でも近視になりますし、常に近くを見ていても近視にならない人も少なくないのです。
 現在では、近視は遺伝的な素因が関係しておこるという考え方のほうが支持されています。
[検査と診断]
 単純近視は、多くは学校の健康診断で発見されますが、教室で黒板の字が見にくいようであれば、眼科で検査を受けましょう。病的近視は、小学校入学前に家庭で発見されることが多いものです。
 いずれも視力検査、屈折検査で屈折度を測定して診断されます。
◎「仮性近視は治る」は誤り
[治療]
 偽近視(仮性近視)の状態のときに治療を行なえば、近視は治るという考え方があります。この考え方は、近視は屈折性近視であって、毛様体の緊張をゆるめれば治るという立場に立つもので、それによってさまざまの治療が試みられてきましたが、ほとんど効果のないことがわかりました。治療をしても、近視になる素質をもった人は近視になってしまうのです。
 軽い単純近視で、めがねをかけなくても日常生活に不自由がなければ、むりにめがねをかける必要はありません。黒板など遠くを見るのに不便があれば、凹(おう)レンズのめがね、あるいはコンタクトレンズを、必要に応じてそのときだけ使用するようにします。ふだんも不自由ならば、常に使用しましょう。
 めがねをかけたくなければコンタクトレンズにしますが、その装用時間を少なくするためにもめがねは必要です。
 単純近視は20歳くらいまで進行する可能性があり、度が変わって見にくくなれば、めがねをかえるようにします。めがねは必ずしも常によく見える必要はなく、片方0.8~0.9、両眼で1.0ぐらいに合わせれば十分です。あまり度の強いめがねは眼精疲労をひきおこすからです。
 病的近視でも、めがねをかけたほうがある程度よく見えます。幼児期ではとくに視力の発達過程ですから、めがねをかけ、弱視となるのを予防します。近視の度が強くなった場合は、弱い度で同じ効果があるので、めがねよりコンタクトレンズのほうが便利です。
●手術治療について
 手術機械の改良などによって、年々、近視矯正手術の安全性も高くなってきました。
 近視の治療法として、角膜に小さな傷をたくさんつけて近視の度を弱くする、角膜を切除して屈折力を変えてから再移植する、レーザーで切開や切除を行なって屈折力を弱くする、水晶体を摘出して眼内レンズに入れ換えて屈折力を弱くする、眼球の後部を補強して眼軸が長くなるのを防ぐなどの手術が行なわれることがあります。
 手術が適応されるのは、基本的に、20歳以上の人で、眼球が発育途中の人は手術できません。治療効果は、屈折の状態によってちがいますので、医師とよく相談してください。
[予防]
 目の過労を防止することです。1~2時間近いところを見る作業を行なったら、15~20分休憩し、やや遠方を見るようにします。また、勉強の際は部屋の採光に注意して姿勢を正しく保ち、印刷物は読みやすいものにする、視力検査をしばしば受けて視力を自覚しておくことなどが近視の予防法といわれています。これらを実行すれば必ず近視が予防できるとはいいきれませんが、目の疲れを防ぐにはよいことです。

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六訂版 家庭医学大全科 「近視」の解説

近視
きんし
Myopia (Shortsightedness)
(眼の病気)

どんな病気か

 近視は通常、眼が奥行き方向に伸びることにより起こります(軸性近視(じくせいきんし))。日本では人口の6割以上が近視で、頻度が高い病気です。

 軽度の近視(屈折異常(くっせついじょう)がマイナス3D(ディオプター:屈折度)未満)および中等度近視(マイナス3D以上マイナス8D未満)は眼鏡をかければよい視力が出るので心配ありませんが、強度近視(マイナス8D以上の近視)になると、網膜剥離(もうまくはくり)などの合併症を生じる場合が多いので注意が必要です。

原因は何か

 近視の成因には、遺伝因子と環境因子があると考えられています。遺伝因子については、一卵性双生児では二卵性双生児の小児と比較して屈折度が類似していること、米国での小学生を対象とした追跡研究で、両親が近視の小児は、片方の親が近視である場合および両親がともに近視でない場合と比較して、近視の頻度が明らかに高いという結果などから、その存在が示唆されます。また、近視の家系に関する分子遺伝学的研究では、近視に関係する遺伝子に関して、染色体上に12の遺伝子座が同定されています。

 しかし、このようなひとつの遺伝子で説明される近視はまれで、多くは多因子遺伝であると考えられています。一方ネパールで、シェルパの子どもの行く学校と、都会の学校で近視度を比較したところ、近くを見ることの多い都会の学校の子どもに近視が明らかに多いという報告などから、近くを見るという環境因子は近視化に重要な役割を果たしていると思われます。

症状の現れ方

 子どもが眼を細めてテレビを見るようになった場合、近視が進行したサインといえますが、学校の検診で視力低下を指摘されて気がつくことが多いようです。軽度の近視から、成長とともに中等度の近視に進行する場合が多く、20歳過ぎまで進行します。

検査と診断

 視力検査および屈折検査を行います。(おう)レンズを通して見た場合、視力が改善すれば近視である証拠となります。学童期で視力低下が起こり、眼鏡で矯正しても視力が出ない場合は、別の眼の病気を疑う必要があります。

治療の方法

 黒板が見にくくなった時点で眼鏡をかけるように指導します。視力としては0.3程度に低下した時点が決断の時期です。眼鏡の度数は、近視を完全に矯正する度数よりはやや弱めに合わせます。はじめは眼鏡を1日中かけている必要はなく、見にくい時だけかけます。

 また日常的な注意事項として、明るい環境でものを見る習慣とし、寝転んだり、悪い姿勢で本を読んだりすることはやめるべきです。また、読書やゲームを続けて長時間せずに、30分たったら休憩を入れるようにしましょう。近視が進んだら、授業用の少し度数が強めの眼鏡と、家庭用の弱めの眼鏡を使い分けると、進行防止になると思われます。

 遠視があって、調節系が過緊張して近視になる場合もあります。この場合は、調節を麻痺(まひ)させる点眼薬で近視がよくなる可能性があります。

 コンタクトレンズは、中学生になれば自分で管理できるようになります。見え方の質はハードレンズのほうがよいのですが、スポーツをする場合は、ソフトレンズのほうが落ちたりずれたりしないため、よいと思います。

 屈折矯正(くっせつきょうせい)手術は、成長期には近視が進行するため、20歳未満の場合は認められていません。成人になれば、屈折矯正手術も近視矯正の選択肢のひとつですが、老視の年齢になった場合に、近くを見る時、軽い近視があるほうが有利なので、慎重に考える必要があります。

病気に気づいたらどうする

 成長期に遠くが見にくくなった場合、近視の始まりであることが多いのですが、網膜の病気である可能性もあるので、眼科を受診することをすすめます。

不二門 尚

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百科事典マイペディア 「近視」の意味・わかりやすい解説

近視【きんし】

目の屈折異常の一つ。無調節状態で目に入る平行光線が網膜の前方で結像するもの。眼軸が長いために起こる軸性近視,角膜や水晶体の湾曲度が強いために起こる屈折性近視,学校近視とも呼ばれる仮性近視(偽近視)の3種に大別される。仮性近視は読書などの近接作業を続ける人に多発し,軽度の近視の多くはこれに属する。毛様体筋の緊張のため水晶体が過調節状態をきたすのが原因とされ,アトロピン点眼,望遠練習が有効。軸性近視と屈折性近視は凹レンズの眼鏡コンタクトレンズで矯正されるが,一般に高度の近視は軸性近視に属し,比較的幼時に始まり,終生その進行をとどめられないのが普通。
→関連項目矯正視力検眼視力回復手術明視距離

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普及版 字通 「近視」の読み・字形・画数・意味

【近視】きんし

近眼。〔石林燕語、十〕歐陽忠(脩)にして、常時讀書甚だ艱(かた)し。惟だ人をして讀ましめ、之れを聽くのみ。府に在ること數年、字をむるに、亦た常人の如し。

字通「近」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「近視」の意味・わかりやすい解説

近視
きんし
myopia

近眼ともいう。遠くから目に入ってくる平行光線が網膜の手前で結像するような状態をいう。したがって,遠くのものがはっきり見えないでぼける。近視が成り立つには,眼軸の長さ (眼球の奥行) は正常の範囲にあるが,角膜や水晶体の屈折力が強い屈折性近視と,角膜や水晶体の屈折力に異常はないが,眼軸の延長している軸性近視の2つがある。強度近視の場合には,網脈絡膜萎縮,網膜剥離,緑内障,白内障,脈絡膜出血を合併することが多く,失明の原因ともなる。これらの合併症のない通常の近視は,凹レンズのめがねやコンタクトレンズで補正できる。

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改訂新版 世界大百科事典 「近視」の意味・わかりやすい解説

近視 (きんし)

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レーシック関連用語集 「近視」の解説

近視

眼のレンズの屈折異常により、光の焦点が眼球の網膜に届かず、遠くのものが見えず、視力が低い状態のこと。視力の低さが長期にわたって持続すると、自然治 癒が難しくなります。

出典 レーシックNETレーシック関連用語集について 情報

世界大百科事典(旧版)内の近視の言及

【屈折異常】より

…眼の屈折に異常があって,眼の調節を休めたとき,遠方の像が網膜上に結ばない状態。近視,遠視,乱視がこれに含まれる。
【眼の屈折と調節】
 眼に入ってくる光は角膜で強く屈折され,瞳孔を通って,水晶体でもさらに屈折され,硝子体ではわずかに拡散して,網膜に到達する。…

【眼鏡】より

…〈両眼の前に常用するに適合した光学器械〉もしくは〈レンズまたは平板を細工して眼前に掛け視力の増進または眼の保護に用いるもの〉と定義される。視力の増進とは,近視,遠視,乱視等の屈折異常を矯正したり,老視(俗に老眼という)による調節の衰弱を補ってやったりして,生活上不便をきたさない視力を得るという意味である。
[視力の増進用の眼鏡]
 (1)近視 近視は屈折に比して眼軸が長いか,眼軸に比して屈折が強いかによって平行な入射光線が網膜前方に結像するような眼である。…

※「近視」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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