肥満(読み)ヒマン

デジタル大辞泉 「肥満」の意味・読み・例文・類語

ひ‐まん【肥満】

[名](スル)からだが普通以上にふとること。「肥満しないように運動する」「肥満体」
[補説]日本肥満学会では、体重と身長から割り出される体格指数が25.0以上の場合を「肥満」としている。→体格指数
[類語]でぶでぶっちょ小太り太りじし太っちょ横太り中年太り水太り酒太り脂肪太り固太り着太り鮟鱇あんこでっぷりぶくぶくぶよぶよ丸丸ころころぽってりぽっちゃりぽちゃぽちゃふっくらふくよか豊満グラマー恰幅かっぷくむっちりむちむち肥える太るぼってりぽってりでぶでぶずんぐりずんぐりむっくり布袋ほてい太鼓腹寸胴ずんどう太め三段腹段腹ビヤ樽

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共同通信ニュース用語解説 「肥満」の解説

肥満

体内の脂肪が一定以上に多くなった状態。高血圧や糖尿病などの原因になるとされる。国際的な指標として体格指数(BMI)があり、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った数値により測定する。日本肥満学会によると理想値は22で、25以上は「肥満」とされる。世界保健機関(WHO)の定義では25以上は「過体重」、30以上が肥満。実際の肥満度はBMIだけでなく体脂肪率とあわせて判断することが望ましい。(ジュネーブ共同)

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精選版 日本国語大辞典 「肥満」の意味・読み・例文・類語

ひ‐まん【肥満】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 ) からだが肥えふとること。
    1. [初出の実例]「いかにもこの御肥満その故にてぞ候らむ」(出典:古今著聞集(1254)一八)

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EBM 正しい治療がわかる本 「肥満」の解説

肥満

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 体脂肪が過剰に蓄積した状態を肥満(ひまん)といいます。
 肥満には皮下脂肪型肥満内臓脂肪型肥満があります。皮下脂肪型肥満は皮膚の下に脂肪がつくもので、重い体重が関節や骨に負担をかけます。また、内臓脂肪型肥満は内臓に脂肪がつくため、高血圧糖尿病(とうにょうびょう)などの生活習慣病の原因になりうる“危険な肥満”です。内臓脂肪型肥満の場合は、できるだけ早期に食生活の改善や適度な運動を中心とした減量を開始することが必要ですが、その際かかっている病気やかつてかかった病気、すでに肥満が原因の病気がないかどうかを検査してもらい、医師とよく相談のうえ、無理のないプログラムを組むほうが安全で効果的です。
 肥満であるかどうかの判定には、体脂肪率を測定するBMI〔ボディ・マス・インデックス=体重(キログラム)÷身長(メートル)の2乗〕指数を用いる方法が一般的です。BMI25以上は肥満と判定されます。
 さらに、次にあげる病気を伴う肥満の場合、治療を行います。
 ① 2型糖尿病・耐糖能障害
 ②脂質異常症(ししついじょうしょう)
 ③高血圧
 ④痛風(つうふう)・高尿酸血症(こうにょうさんけっしょう)
 ⑤冠動脈疾患(かんどうみゃくしっかん):狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)
 ⑥脳梗塞:脳塞栓症(のうそくせんしょう)・一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)
 ⑦睡眠時無呼吸症候群ピックウィック症候群
 ⑧脂肪肝
 ⑨整形外科的疾患:変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)・腰椎症(ようついしょう)
 ⑩月経異常
 このほか、臍(へそ)の位置で撮影したCTにより内臓脂肪面積が100平方センチメートル以上ある場合は、健康障害をおこすリスクの高い肥満として治療を行います。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 肥満は、消費するエネルギーよりも摂取するエネルギーが多い状態が持続的に続き、体に余分なエネルギーが脂肪として蓄えられた結果おこるものです。おもな原因には次のようなものが考えられています。
 過食/さまざまな理由がありますが、最近の傾向はストレスによって過度に食事をしてしまうというものです。満腹感を覚えない、満腹してもさらに食べてしまうといった精神的なものも影響します。
 不規則な食事や早食いなど/決まった時間に食事をしない、早食いなどの原因によって消化が悪くなり、肥満することがあります。
 運動不足/運動をしないと摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、その結果余分なエネルギーを脂肪のかたちで体にため込むようになります。
 体質・遺伝/ホルモン異常や遺伝性の肥満の場合もあります。

●病気の特徴
 厚生労働省の「平成25年国民健康・栄養調査」によると、日本では、男性の肥満者の割合は28.6パーセント、女性の肥満者の割合は20.3パーセントであると報告されています。




よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]減量は標準体重ではなく、現状の5~7パーセント減少程度を当面の目標体重として設定する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 最初から理想的な体重を肥満治療の目標とするのではなく、5~7パーセント減少程度の実行可能な目標を設定すべきとされています。5パーセントを超える程度の体重の減少で、心疾患のリスクとなり得るもの(脂質異常や高血圧、耐糖能障害)を改善させることができるとされています。(1)

[治療とケア]肥満であることの弊害を本人に理解させ、動機づけを行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 治療についての動機づけを十分に行うことが、肥満治療を成功させる重要な要因であるという臨床研究があります。(2)

■生活習慣の改善を行う
[治療とケア]行動療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 肥満の患者さんは、肥満しやすい生活習慣をもっていることが多いので、生活実態、食事、運動について記録をとり、問題点を洗いだし、生活習慣の改善に取り組むという行動療法を行うことが有効です。これは非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(3)

[治療とケア]食事療法、運動療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 生活習慣の改善の一環として食事療法、運動療法は肥満の中心的な治療法で有効であることが、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。(3)~(5)

 



[治療とケア]超低エネルギー食療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 1日約400キロカロリー程度の超低エネルギー食は、体重を減らすのに有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究によりわかっています。しかし、長期的には従来の低エネルギー食と効果は変わらないとする研究もあります。(2)(6)

[治療とケア]薬物療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] いくつかの薬物が肥満の治療に有用であることが非常に信頼性の高い臨床研究により知られています。しかし、薬物治療はあくまでも補助的なもので、食事、運動療法が治療の中心となります。(2)


よく使われている薬をEBMでチェック

肥満治療薬
[薬名]サノレックス(マジンドール)(7)
[評価]☆☆
[評価のポイント] マジンドールには食欲を低下させる効果があり、肥満の治療に有効であることが非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。しかし、長い目で見ると薬が徐々に効かなくなってきたり、薬を中止するとリバウンドで体重が増えやすいといわれたりしていることなどから、薬物療法のみに頼る治療は慎重に検討すべきでしょう。(2)


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
動機づけが最大の課題
 実行することができさえすれば、効果が確実で安全な肥満の治療法は食事療法と運動療法です。しかし最大の問題は、本人が体重を減らしたいという動機づけができるかどうかにあります。
 残念ながら、肥満状態が続くと、生活習慣病やそれに引き続いて生ずる心臓や血管の病気などいかに重大な健康上の問題がおこるかを医師が説明しても、ほとんどの場合十分な動機づけにつながりません。どのような場面で、どのようなアドバイスをすれば動機づけできるのかは、患者さんと医師とのコミュニケーションが十分とれているということが前提となります。
 体重を減らしたいという強い気持ちさえもっていれば、どれくらいの期間でどれくらい体重を減らすのを目標としたらよいのか、食事内容と量、どのような運動が望ましいのかなどは、それぞれ個人個人に特有の状況(肥満度、性別、動脈硬化危険因子の有無、併発疾患の有無など)を考え合わせて、これまでにわかっているさまざまな研究結果に基づいてアドバイスすることが可能です。

肥満から脱する基本的な方法
 基本的には次のような対策をすることで、肥満を改善することになります。
1. エネルギー計算を覚える。食品のエネルギー量を理解し、エネルギー制限が正しく実行できるようにします。
2. 規則的な食生活を守る。1日3食を守ることが減量につながっていきます。間食をしないようにします。
3. 食事内容を見直す。炭水化物や脂肪の多い食品を減らしていきます。
4. ゆっくり食べる。早食いは過食の原因となります。
5. 運動をする。1日の決めた時間に持続できる運動をするようにします。
 肥満度の高い患者さんでは、食事の量を強制的に制限する目的で胃を小さくする手術が有効なことは実証されていますが、欧米と違ってわが国では、非常にまれにしか行われていません。
 薬物療法についても、現在まで、いろいろな薬が開発され、試用されていますが、短期的には減量効果があっても内服中止後のリバウンドによる体重増加や比較的重い副作用の問題が解決されておらず、薬物単独での治療は、安全性という意味で勧められるものではありません。

(1)Douketis JD, Macie C, Thabane L, Williamson DF. Systematic review of long-term weight loss studies in obese adults: clinical significance and applicability to clinical practice. Int J Obes (Lond). 2005;29:1153.
(2)Clinical guidelines on the identification, evaluation, and treatment of overweight and obesity in adults: executive summary. Expert Panel on the Identification, Evaluation, and Treatment of Overweight in Adults. Am J Clin Nutr. 1998;68:899-917.
(3)Tsai AG, Wadden TA. The evolution of very-low-calorie diets: an update and meta-analysis. Obesity (Silver Spring). 2006; 14: 1283.
(4)Weinstock RS, Dai H, Wadden TA. Diet and exercise in the treatment of obesity: effects of 3 interventions on insulin resistance. Arch Intern Med. 1998;158:2477-2483.
(5)Metz JA, Stern JS, Kris-Etherton P, et al. A randomized trial of improved weight loss with a prepared meal plan in overweight and obese patients: impact on cardiovascular risk reduction. Arch Intern Med. 2000;160:2150-2158.
(6)Apfelbaum M, Vague P, Ziegler O, et al. Long-term maintenance of weight loss after a very-low-calorie diet: a randomized blinded trial of the efficacy and tolerability of sibutramine. Am J Med. 1999;106:179-184.
(7)Walker BR, Ballard IM, Gold JA. A multicentre study comparing mazindol and placebo in obese patients. J Int Med Res. 1977;5:85-90.

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改訂新版 世界大百科事典 「肥満」の意味・わかりやすい解説

肥満 (ひまん)
obesity
fatness

皮下に過剰に脂肪が蓄積した状態。肥満は文明病とされ,発展途上国では一部の特権階級を除いてほとんどみられないが,欧米など先進国では40歳を超えると3~4割の肥満者が存在するといわれている。日本でも高度成長期の1970年以降増えつつあり,40歳以上で約3割の人が標準体重より20%以上の過剰体重を示すようになった。最近では重症の小児肥満も多くなり,社会的・教育的問題になっている。肥満が今日問題にされているのは,法定伝染病,結核のような感染症が栄養状態の改善や医療の進歩によりほとんど死に至らない病気になったのに対し,糖尿病,高血圧,脳卒中,心臓病などの成人病が死亡の主因となり,肥満がその発病の誘因として大きく関与しているからである。

通常,脂肪は体重の約18%くらい存在し,エネルギーの貯蔵部位として,また女性にとっては優美な体型をつくるものとしての役割を果たしているが,この脂肪が過剰に蓄積すると肥満となる。体の脂肪量を直接測定するには放射性同位元素を使うなど特殊な方法があるが,実地医療および健康管理などの点からは実施は困難である。そのため一般的には身長に対する標準体重を定め,標準体重に対する過剰体重をもって肥満度としている。標準体重の決め方には種々の方法があるが,成人ではブローカの変法と呼ばれる計算法が一般的である。これは,身長150cm以上は[(身長-100)×0.9]kg,150cm未満は[身長-105]kgをもって標準体重としている。判定基準としては,±10%以内を正常,+10~30%を肥満,+30%以上を肥満症とし,最後のものを治療の対象とする。その理由は,+30%以上の肥満者は死亡率の上昇とともに肥満に伴う合併症が,正常体重者と比較して急激に多くなるからである。

肥満は体に入った過剰のエネルギーを脂肪として体に蓄積することによるわけであるから,食事のとりすぎ(摂取カロリーの過剰)と運動不足(利用エネルギーの減少)が二大原因である。しかしながら,〈やせの大食い〉というような現象があるように,過剰エネルギーが体内に蓄積する生化学的および生理的異常が存在するはずであり,この異常が肥満の真の原因といえる。このような原因としては動物実験を基礎として,以下のような原因論が提唱されているが,人間の肥満の原因としてはっきり証明されているものはまだ存在しない。

(1)食欲調節機構の乱れ説 脳の中にある特殊な部位,視床下部には,食欲を増す食欲中枢と食欲を抑制する満腹中枢がある。肥満者はこの満腹中枢の感受性が低いために,満腹感が少ないことによって過食になることが原因であるとする説である。

(2)インシュリン過剰分泌説 膵臓から出るホルモン,インシュリンは,脂肪をつくったり,血液中の脂肪を脂肪細胞の中にとり込んだり,いったんたまった脂肪を分解しにくくする等の脂肪蓄積作用がある。このインシュリンが肥満者においては過剰に分泌されているという考え方である。これは,視床下部にある満腹中枢(腹内側核)破壊によって作成する実験肥満モデル,つまり視床下部性肥満動物では,インシュリン分泌の過剰が肥満の原因であることから導き出された。

(3)褐色脂肪細胞障害説 脂肪細胞には脂肪の蓄積に働く白色脂肪細胞と,熱をつくり体温調節に働く褐色脂肪細胞がある。ある種の遺伝性の肥満動物では,褐色脂肪細胞が少ないため熱の産生が少なく,そのため熱として失われないエネルギーが脂肪の形で貯蔵されることが肥満の原因と考えられていることから導き出された。

(4)脂肪細胞増殖説 脂肪を蓄積する白色脂肪細胞は,三つの時期にその数を増やすことがわかっている。第1は母親の胎内での妊娠末期の3ヵ月,第2は生後1ヵ年,第3は思春期である。この時期に過剰摂取状態になると脂肪細胞は数が増えて過剰カロリー摂取に陥り,これが難治性の脂満をつくるという考え方である。

 以上の考え方は,人間においても一部の肥満の原因または多くの肥満の悪化因子として作用している可能性はあるが,人間の肥満の大部分を占める単純性肥満の原因と認められる根拠はまだ確認されていない現状である。

医学的には第1に死亡率が高率である。その死亡率はある統計によれば,30歳代では正常体重者の7倍以上,40歳代以上では2倍以上と報告されている。死因は心臓病が最も多く,次いで糖尿病,胆石症となっている。肥満者は脂肪過多のため手術が難しく,手術時の危険度も高いため死亡率が高くなること,また交通事故死なども正常体重者より多いことが統計的に認められている。第2は肥満に伴う合併症が多いことである。正常体重者と比較すると,糖尿病(5倍),高血圧(3.5倍),胆石症(3倍),心臓疾患(2倍),関節炎(1.5倍),不妊症(3倍)などが高率で出現し,さらに子宮体部癌も多いことが報告されている。ただ自殺は少なく,約7割である。肥満に伴う社会的不利益は日本ではまだ顕在化していないが,アメリカでは就職や昇進のおりに差別を受けることが問題になりはじめている。

治療は食事療法が基本である。食事療法としてはカロリー制限が中心で,肥満度が30~50%の中等度肥満者は標準体重に対して体重1kgにつき1日20cal,50%以上の重症肥満者は体重に関係なく1日1200calの処方を行っている。また,カロリー制限だけでなく,食事のタイミングもたいせつである。夜食症候群といわれるように夜寝る前に食べることは太ることにつながるので夜8時以降は食べないようにし,活動のエネルギーとして使われる昼間に多く食べ,夜は少なめに食べることがたいせつである。また食事は3食均等か,むしろ朝・昼食を多めに食べるほうがよい。よく朝食や昼食をぬく人がいるが,同カロリーを摂取する場合,回数を多くしたほうが太らないということは実験的にも証明されているので,食事の回数を減らすことは方法論的にも誤りである。アメリカでは食事療法の効果を高めるために,心理的療法をとり入れた行動療法や集団療法が行われている。また食事療法の補助療法として運動療法もたいせつである。体の脂肪1kgは約7000calのエネルギーを含んでいる。一時的に7000cal以上の運動はマラソンやボクシングのようなかなり過激な運動でないと達成は困難なため,一般の人には無理であるが,1日200~300calの運動を行うことは代謝の異常を是正して脂肪の蓄積を防ぐ作用があるのでたいせつである。運動によるカロリー消費は体格,体質により差があるが,目安は歩行では1時間半,縄跳び,水泳,サイクリングでは1時間が約200~300calのエネルギー消費にあたる。治療の速効を目的とする脂肪除去手術,吸収面積を小さくするために一部の小腸を切除する小腸バイパス手術,食事量を減らすための胃を縮小する胃バイパス手術や顎固定術のような外科的療法もあるが,日本ではほとんど行われていない。

一度肥満になると現代のように食物があふれている状況では治療はなかなか難しいので,その最大の治療は肥満の予防であるといえる。その第1は,脂肪細胞が増える前述の3時期の過剰カロリー摂取は脂肪細胞の数を増やして難治性の重症肥満に陥りやすいため,この時期の適正なカロリー摂取がたいせつである。ことに妊娠末期,生後1ヵ年間の過栄養は母親の責任である。第2は,ふだんの過剰カロリー摂取を避けることである。間食を避け,夜遅くなって食べないようにする。第3は,1日200~300calの運動を心がけ,体を脂肪のたまりにくい状態に保つことが肝要である。
食欲
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内科学 第10版 「肥満」の解説

肥満(症候学)

概念
 肥満は身体に脂肪が過剰に蓄積した状態である.肥満による合併症がすでに存在するか,またその発症あるいは増悪にかかわり,医学的管理の必要性があるものを肥満症(obesity)と定義する.肥満の指標として,体重(kg)÷(身長(m))2で求めるbody mass index(BMI)が用いられ,BMI 25以上を肥満とする.臨床的には,肥満に伴う合併症を併発しやすい内臓脂肪蓄積型肥満が重要視されている.
病態生理
1)エネルギーバランス:
肥満をもたらす基礎疾患の有無によって,明らかな原因がない単純性肥満(原発性肥満)と症候性肥満(二次性肥満)に分けられる.肥満の90%以上を占める単純性肥満は,摂取および消費エネルギーのバランスがくずれ,余分なエネルギーが脂肪として貯蔵されることによって生じる.エネルギー摂取過多の要因としては,過食や間食など食物摂取の過剰がある.エネルギー消費系としては,基礎代謝,運動(身体活動),食事誘導性熱産生によるものが,それぞれ60~75%,15~30%,10%の割合で関与している.エネルギー消費系の要因としては,運動不足が最も大きい.基礎代謝や熱産生による消費系はホルモンや自律神経系で自動的に調節される.
2)遺伝要因:
肥満遺伝子(ob gene)は脂肪蓄積に伴って脂肪組織で特異的に発現が亢進し,レプチンを産生する.レプチンは食行動調節中枢が存在する視床下部に運ばれ,同部のレプチン受容体と結合し,摂食を抑制するとともに,自律神経系を介し,末梢でのエネルギー消費を亢進させる.レプチン産生異常あるいはレプチン受容体異常に基づく肥満発症家系が少数例ではあるが報告されている.一般的な肥満症患者では,レプチンの産生や受容体に異常はなく,脂肪蓄積増加を反映して血中レプチン値が増加している.レプチン値が高いにもかかわらず肥満が是正されていないため,肥満症患者にはレプチン抵抗性があると考えられる.
 β3-アドレナリン受容体は脂肪組織に存在し,交感神経系を介する熱産生と脂肪分解に重要な役割を果たしている.このβ3-アドレナリン受容体遺伝子のミスセンス変異がヒトでも比較的多く存在することがわかり,肥満症やその合併症発症との関連が明らかにされている.
 以上より,肥満発症に遺伝的要因が存在することは確実である.しかし,親子間など家族内発症については,食生活や食習慣などが類似しているという後天的要因も関与しており,遺伝的要因だけでは説明できないことも多い.
3)食行動調節系:
食行動は,摂食中枢である視床下部外側野(lateral hypothalamic area: LHA),満腹中枢である視床下部腹内側核(ventromedial hypothalamic nucleus:VMH)および室傍核(paraventricular nucleus:PVN),レプチン受容体を豊富に有する弓状核(arcuate nucleus:ARC) などによって構成される神経回路網によって調節されている.これらの中枢に存在するニューロン群が食行動に連動して血液中で増減するグルコースなどの代謝産物やレプチンなどのレベルをモニターし,食行動に反映させる.PVNには摂食抑制物質である副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin releasing hormone:CRH)が存在し,レプチンによって促進性の制御を受けている.ARCは摂食促進物質であるニューロペプチドY(neuropeptide-Y:NPY)やアグーチ関連蛋白(agouti-related protein:AgRP),摂食抑制系であるpro-opi­omelanocortin(POMC)系ニューロンが存在し,レプチンによってそれぞれ抑制性と促進性の調節を受けている.その他ノルアドレナリン,セロトニン,ヒスタミンなどのモノアミン類も食行動やエネルギー代謝の調節物質として作動している.
 胃や肝臓の内臓由来の内因性情報,環境温度など体性感覚によってもたらされる外因性情報も,視床下部に入力しており,視床下部はそれらの情報を統合的に処理することによって,動物の食行動をより適切なものへと導いている.また食行動の動機づけや,意志,欲求,記憶,認知など,より高次の脳機能に関与する大脳皮質連合野や大脳辺縁系からの情報入力もある.ストレス過食など,ヒトの肥満症発症につながる問題食行動にはこの調節系の影響が大きい.
4)代謝動態:
肥満に伴うインスリン抵抗性には,脂肪組織より分泌されるTNF-αやレジスチンなどのアディポサイトカインが関与している.肥満症で増加する遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA) も,脂肪毒性を介してインスリン作用を抑制する.インスリンの作用低下は,やがて耐糖能異常,糖尿病の発症へと結びつく.一方,アディポネクチンは脂肪組織特異的に発現する蛋白で,抗動脈硬化作用,抗糖尿病作用を有する.肥満に伴ってアディポネクチンが減少することも,インスリン抵抗性や動脈硬化の増悪につながる.
 食事性脂肪から合成されたカイロミクロンや,肝で合成されたVLDLの主成分である血液中のトリグリセリド(TG)は,リポ蛋白リパーゼ(lipoprotein lipase:LPL)によりFFAに分解される.この段階で脂肪細胞内に取り込まれたFFAとグルコースによって,脂肪細胞内でTGが合成される.この過程で,インスリンはLPL活性およびグルコースの細胞内取り込みを促進することにより,脂肪合成に促進的に働く.脂肪分解の過程では,脂肪細胞内に蓄積されたTGがホルモン感受性リパーゼ(hormone sensitive lipase:HSL)によってFFAとグリセロールに分解される.インスリンは,HSL活性を抑制することで脂肪分解に抑制的に働く.したがって,高インスリン血症は基本的には脂肪合成促進,脂肪分解抑制作用を介し,脂肪蓄積を増大させる方向で働くことになる.肥満症では,過剰エネルギー摂取による原料供給と脂肪組織からのFFAの動員増加があり,肝臓でのTGおよびVLDLの過剰産生,過剰分泌が起こる.一方,末梢組織のインスリン抵抗性が増大すると,LPL活性はむしろ低下し,TGの異化障害が加わって,高トリグリセリド血症,高VLDL血症をきたすことになる.
合併症
1)代謝系:
高インスリン血症,2型糖尿病,耐糖能異常,脂質異常症,高尿酸血症および痛風を認める.
2)メタボリック症候群:
内臓脂肪蓄積型肥満に脂質異常症(高トリグリセリド血症または低HDL血症),高血糖,高血圧のうち2つを合併した病態をメタボリック症候群と診断する.心筋梗塞など動脈硬化性疾患の危険因子として注目されている.
3)循環器系:
高血圧,冠動脈疾患,脳血管障害,肥満関連腎臓病などがある.
4)呼吸器系:
睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome),肥満低換気症候群が問題である.
5)消化器系:
脂肪肝,胆石症の合併が多い.
6)その他:
変形性膝関節症,股関節症などの整形外科的疾患,女性では無月経などの月経障害や妊娠合併症(妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群,難産)がある.胆道癌,大腸癌などの悪性疾患の発生率も高い.
診断
 BMIが一般的に用いられ,BMI 25以上を肥満と定義する.インピーダンス法などを用いた体脂肪率の測定では,男性で25%以上,女性で30%以上を肥満と判定することが多い.腹部CT断面像による蓄積内臓脂肪の判定(脂肪面積が100 cm2以上のものを内臓脂肪型肥満と診断) も重要だが,簡便法として臍レベルでの腹囲測定を行い,男性85 cm以上,女性90 cm以上を内臓脂肪蓄積型肥満とする.
鑑別診断
 おもな症候性肥満症を表2-23-1に示す.[浅原哲子・小川佳宏]

文献
石川勝憲ほか:肥満の見分け方.臨床症状シリーズ7.肥満(上田英雄,他編),南江堂,東京,1979.日本肥満学会:肥満症治療ガイドライン2006.肥満研究,12: 2006.吉松博信:脳と食欲制御.臨床糖尿病学,内分泌・糖尿病科,20: 76-90, 2005. 

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とっさの日本語便利帳 「肥満」の解説

肥満

体脂肪の過剰に蓄積した状態。成人の体脂肪率は標準約一八%で、これを超えた状態を肥満という。体脂肪を直接測る方法はかなり煩雑で、一般に(1)のような判定基準を用いる。また、体格指数として測定されるBMI(2)が二五以上の場合も肥満。
(1)肥満度(%)=〔(体重-標準体重)÷標準体重〕×一〇〇 ※標準体重=身長(m)2×二二
(2)BMI=体重(kg)÷身長(m)2

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肥満」の意味・わかりやすい解説

肥満
ひまん

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵 「肥満」の解説

肥満

体脂肪率」のページをご覧ください。

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

生活習慣病用語辞典 「肥満」の解説

肥満(2度以上)

肥満 2 度とは BMI 値が 30 以上 35 未満をいいます。肥満 3 度とは BMI 値が 35 以上 40 未満をいいます。肥満 4 度とはBMI値が40以上をいいます。

肥満(1度)

BMI値が 25 以上 30 未満をいいます。

出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報

普及版 字通 「肥満」の読み・字形・画数・意味

【肥満】ひまん

ふとる。

字通「肥」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

栄養・生化学辞典 「肥満」の解説

肥満

 脂肪組織が過剰に増えている状態.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の肥満の言及

【脂肪細胞】より

…この繊維は脂肪細胞ないし脂肪芽細胞が形成したものである。皮下や腹壁などの脂肪組織に脂肪細胞が増加し,かつそれぞれの細胞が大量の脂肪滴を蓄えると肥満が起こる。逆に,飢餓に陥ると脂肪細胞の脂肪滴は減少ないし消失する。…

【動脈硬化】より

…すなわち,血糖からみた糖尿病の重症度と血管障害発生との間に相関がなく,また血糖をコントロールしておいても血管障害が発生する場合のあることなどから,高血糖は糖尿病における粥状硬化の主要な病因にはなりえないという説が提唱されている。糖尿病(4)肥満 肥満そのものが動脈硬化の悪化因子として強調された報告は少なく,高血圧,高コレステロール血症,喫煙の習慣などが伴うと高度に動脈硬化を悪化させる。肥満(5)ストレス 動脈硬化症には当然代謝異常としての身体面の異常が存在するわけであるが,この代謝異常には心理的な問題が影響を与えることが知られている。…

※「肥満」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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