改訂新版 世界大百科事典 「ヘシュカスモス」の意味・わかりやすい解説
ヘシュカスモス
hēsychasmos[ギリシア]
ビザンティン帝国の末期にアトス山を中心におこった神秘主義思想。〈静寂主義〉の意。インドのヨーガに似た肉体統制とイエスの祈りの無限の反復によって,心の平静(ヘシュキア)の状態を作りだし,神の〈非創造の光〉(キリスト変容の際,弟子が見たという光)を肉眼で見て,神と合一することを目標とする。このような修行方法は14世紀にアトス山の修道士のあいだで盛んになり,人々の注目を引いた。それに対して,南イタリアのカラブリア出身で,西方神学の素養のある修道士バルラアムBarlaamが,14世紀前半に,ヘシュカスモスには異端の疑いがあるとして激しく攻撃し,大論争となった。首都コンスタンティノープルの知識層はバルラアムを支持したが,神学者でテッサロニケ大主教をつとめたグレゴリオス・パラマスがヘシュカスモスを擁護した。この問題をめぐって7回の主教会議が開かれ,政治的な配慮もあって,最終的にはパラマスの立場が勝利を得て,ヘシュカスモスは公式に認められた。ただしローマ教会はこれを異端とした。ヘシュカスモスの思想と修行方法は早くからブルガリアに伝わり,また修道士ニル・ソルスキーなどによってロシアの地にひろまった。
→キエティスム
執筆者:森安 達也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報