日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘブル書」の意味・わかりやすい解説
ヘブル書
へぶるしょ
The Epistle of the Hebrews
『新約聖書』のなかの手紙の一つ。本文には、差出人も受取人も明記されていない。そのためさまざまな推測がなされ、差出人については、パウロ、ルカ、ローマのクレメンス、アポロ、バルナバなどを想定する説がたてられたし、受取人(表題によれば「ヘブル人(びと)」)についても、ユダヤ人キリスト者説と異邦人キリスト者説とがあるが、いずれも定説ではない。執筆の時期は80~90年ごろと考えられる。ここでは、迫害のなかにあっても信仰告白を固く守ることが勧められ、そのために、イエス・キリストを永遠の「大祭司」として、また教会を途上にある神の民として理解する独自な神学的教説が展開されている。この種の文書は、手紙の形式をとってはいるが、本来別な文学類型に属するともいえよう。
[土屋 博]