日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベルナデットの歌」の意味・わかりやすい解説
ベルナデットの歌
べるなでっとのうた
Das Lied von Bernadette
ユダヤ系オーストリアの作家フランツ・ウェルフェルの長編小説。1940年、亡命国フランスの敗北によりピレネー山麓(さんろく)のルルドに逃れた作者は、この苦境から脱出できれば、詳しく知ったベルナデットの奇跡の物語を書こうと誓う。それは翌41年アメリカで実現する。作品は聖母マリアと霊泉の出現から主人公ベルナデットの死と教会による列聖までを描くが、自己をカトリックではなくユダヤ人だと強調する作者にとって、問題は科学の世紀になぜかかる奇跡がおこりえたかという謎(なぞ)にあった。第二次世界大戦のさなか虚無と憎悪のみなぎる世界にあくまで「宇宙の神的な意義」を弁護する作者の宗教的ヒューマニズムは深い感銘を与えた。
[山戸照靖]
『片山敏彦・田内静三訳『ベルナデットの歌』上下(1950、51・エンデルレ書店)』