窪田空穂(くぼたうつぼ)の詩歌集。1905年(明治38)鹿鳴(ろくめい)社刊。空穂の第一詩歌集で、短歌293首のあとに詩33編を収載。『明星』時代の作からは厳選し、刊行時に近いものを多く収載。青春の憧(あこが)れや夢を追うロマンチックな作にも、華麗・奔放よりも、清麗・沈静な内省が感じ取られる。心情の傷痕(しょうこん)を歌った作が多く、当時与謝野鉄幹(よさのてっかん)は「優婉(ゆうえん)」と評している。徐々に現実味を加えていく跡をたどりうる。土岐哀果(ときあいか)(善麿(ぜんまろ))、前田夕暮(ゆうぐれ)ら、次の世代に与えた影響とともに、浪漫(ろうまん)主義的な世界からやがて自然主義へ移行する直前の詩歌壇の生んだ作という位置づけのなかにある。
[武川忠一]
鉦(かね)鳴らし信濃(しなの)の国を行き行かばありしながらの母見るらむか
『『明治文学全集63 窪田空穂他集』(1967・筑摩書房)』
…《文庫》や《明星》で活躍したが,1902年水野葉舟らと文芸雑誌《山比古(やまびこ)》を創刊し,さらに小説を中心とした一時期をへて,14年には《国民文学》を創刊した。1905年詩歌集《まひる野》で注目を浴びたが,以後現実的傾向を強め,人生的詠嘆の深さをやどした独自の歌調を確立した。《濁れる川》(1915),《土を眺めて》(1918),《鏡葉》(1926)など多くの歌集があり,長歌作者としても知られている。…
※「まひる野」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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