日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルコ伝福音書」の意味・わかりやすい解説
マルコ伝福音書
まるこでんふくいんしょ
『新約聖書』のなかの共観福音書の一つで、現存する最古の福音書。「マルコによる福音書」ともいう。「マタイ伝福音書」「ルカ伝福音書」はいずれもこれを資料として用いている。内容は、洗礼者ヨハネの登場からイエスの活動、受難を経て、空(から)の墓の発見に至る一連のできごとを、マルコの視点に基づいて述べたものである。十字架と復活に至る以前のイエスの生を、奇跡物語を中心にして描くというところにこの福音書の特徴があり、それはまた、福音書文学そのものの方向づけでもあった。福音書記者は、初期教団の伝承に基づきマルコMarkosとされているが、その人物を確定するための史料が存在するわけではない。執筆の場所をローマとする説も推測にとどまる。執筆の時期は、記事の内容から判断して、ユダヤ戦争の終わりに近いころ(70年より少し前)ではないかと考えられる。
[土屋 博]