改訂新版 世界大百科事典 「ヨーガバーシシュタ」の意味・わかりやすい解説
ヨーガバーシシュタ
Yogavāsiṣṭha
古代インドの哲学文献。別名を《バーシシュタ・ラーマーヤナVāsiṣṭha-rāmāyaṇa》ともいう。インド二大叙事詩の一つ《ラーマーヤナ》に基づいて書かれたもので,バーシシュタVāsiṣṭha仙とラーマとの対話形式で論述が進められている。ヨーガの実践により至福に到達すべきことを主たる内容としているが,欲世からの遠離を賞揚せず,むしろ世俗生活にとどまることを勧め,布施や祭式が解脱に至る手段として必ずしも有効でないと主張し,聖典の説であっても条理に反すれば従うべきではないと説くなど,伝統的なバラモン教の教義を踏み出た見解が随処に述べられている。思想的には六派哲学の一つベーダーンタ学派の不二一元論派の影響を強く受けていると考えられるが,仏教思想にバラモン教哲学諸派と同等の意義を認めるなど,仏教との親縁性も顕著に認められる。一部に恋愛至上主義的な主張も述べられているなど,インドの哲学書のなかでも異色の文献の一つである。サンスクリットで書かれており,6~8世紀ころの成立と推定されている。
執筆者:吉岡 司郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報