改訂新版 世界大百科事典 「ライラとマジュヌーン」の意味・わかりやすい解説
ライラとマジュヌーン
Laylā wa-Majnūn
イスラム文化圏で広く親しまれている悲恋物語。アラブ世界では〈マジュヌーン・ライラ〉として知られる。家柄も教養も良く育った2人であったが,詩才豊かな主人公カイスは恋人ライラの名前を,ある詩の中に叙してしまったために,恋人の家柄を著しく傷つけ,そのため求婚も拒絶されてしまう。恋人が他人に嫁ぎ,癒されぬ恋の病いはカイスを発狂させ,マジュヌーン(狂人)と呼ばれながら砂漠をさまよい,恋人の幻影を追い求める。ライラは恋人への愛と夫への忠節とのはざまに苦しみ,果ては衰弱して死ぬ。マジュヌーンも純粋な恋の気持を詩にうたいながら,ライラの後を追う。筋に小異はあるものの,こうした恋物語はアラビアの砂漠的環境に生まれ,その純愛と悲恋,詩のすばらしさおよび歌にセットされたことなどの理由から,広くイスラム文化圏に流布し,中でもイランの詩人ニザーミーの作品化の功績は大きく,神秘的な愛をうたい,神秘主義の教科書ともいわれる。物語,民謡,詩吟,劇として今日でも絶大な人気があり,西洋でも《ロミオとジュリエット》の中東版として親しまれている。
執筆者:堀内 勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報