改訂新版 世界大百科事典 「レトアール」の意味・わかりやすい解説
レトアール
Pierre de l'Estoile
生没年:1546-1611
フランスの年代記作者。1574年から1610年までのフランスの社会情勢を〈日々憶え書き〉として記録にとどめ,時代の証言者となった。オルレアンの名門法服貴族の出で,パリ大学で学んだあと,アンリ3世治下の社会的動乱のさなかでは,パリの法曹界で,極力目だたぬ地位に身を安んじ,自分の身辺に起きたできごとを備忘のため,好奇心につき動かされてメモすると称して,大小の社会的事件,逸話,風俗に関する詳細な記録を《日記》の形で残した。現行版で8折,4巻,計2000ページを超すこの膨大な《日記》は,アンリ3世,アンリ4世治下のパリを知るかけがえのない資料である。そして,状況の中の人間に赤裸々な目を注ぐことをもって,彼が自分自身のことをいくぶんかモンテーニュだと思っているのも,あながちゆえなしとしえない一個の文学作品となっている。
執筆者:細川 哲士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報