改訂新版 世界大百科事典 「レ朝刑律」の意味・わかりやすい解説
レ朝刑律 (レちょうけいりつ)
ベトナムのレ(黎)朝時代(1428-1789)の法典。6巻12章721条または722条から成り,現存するベトナム最古の法典。レ朝では4代タイントン(聖宗)期に制定された洪徳条律(刑律)があり,1767年にこれをほぼ踏襲した《国朝条律》が刊行された。現存する《国朝刑律》(木版)はほぼこの《国朝条律》と内容を同じくするものと考えられる。また《黎朝刑律》(写本)は後代にこれを手写したものであり,《歴朝憲章類誌刑律誌》もこれを収録したものと考えられる。内容は,名例,衛禁,職制,軍政,戸婚,田産,姦通,盗賊,闘訟,詐偽,雑律,捕亡,断獄に分類される。その内容は唐律を基本に明律を加え,さらに多くのベトナム固有法の条文から成っている。とくに五刑と並んで損害賠償,あるいは身分降罷を並課する刑罰規定,売買婚・複婚制をもつ婚姻規定,女子の地位が高い財産相続制,あるいは祖先祭祀のための香火田制など,ベトナム固有の社会慣習が強く反映されている。この点では清法典の直輸入であるグエン(阮)朝の皇越律例とは大きく異なっている。
執筆者:桜井 由躬雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報