改訂新版 世界大百科事典 「ロンギヌス」の意味・わかりやすい解説
ロンギヌス
Longinus
キリスト教伝説に語られるローマの百卒長,殉教者。イエスが十字架にかけられたとき,そのわき腹を槍で刺した人物として知られる。ヤコブス・デ・ウォラギネ《黄金伝説》(13世紀)によれば,刺した瞬間に起こった天変地異を見て回心し,さらに槍を伝って落ちてきたイエスの血により弱っていた視力を回復したのち,カッパドキアのカエサレアで宣教に専心,同地で捕らえられ偶像崇拝を拒否して斬首されたという。伝説ではイエスを刺した槍は,のちコンスタンティヌス1世の母ヘレナによって聖十字架,聖釘とともに発見され,6世紀以降のロンギヌス崇敬と結びつきさまざまの〈聖槍Holy Lance〉伝説を生むことになる。一説にはアリマタヤのヨセフが〈聖杯〉と〈聖槍〉をイングランドにもたらしたといわれ,アーサー王伝説の中にもとり込まれた。またカール大帝がこの聖槍の効験でイスラム軍を撃退したとか,聖槍の所有者が世界征服を達成するなどの伝承が古くからあり,ヒトラーの野望は彼がウィーンのホーフブルク宮にある〈聖槍〉の霊感に打たれたときに始まるとする説まである。〈聖槍〉はバチカンのサン・ピエトロ大聖堂ほかヨーロッパ各地に今も残る。なお,ロンギヌスの祝日はかつては3月15日であったが,現在では聖列から外されている。
執筆者:松宮 由洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報