インベンス(読み)いんべんす(英語表記)Guido Wilhelmus Imbens

日本大百科全書(ニッポニカ) 「インベンス」の意味・わかりやすい解説

インベンス
いんべんす
Guido Wilhelmus Imbens
(1963― )

アメリカの経済学者オランダ南部のゲルドロップに生まれる。子供のころは熱心なチェスプレーヤーであった。1983年にエラスムス・ロッテルダム大学を卒業し、1991年にアメリカのブラウン大学で経済学博士号(Ph.D.)を取得した。ハーバード大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、同バークレー校などで教鞭(きょうべん)をとり、2012年からスタンフォード大学教授。オランダとアメリカ、両方の国籍をもち、専門は計量経済学。

 インベンスは、カリフォルニア大学バークレー校教授のデビッド・カードが編み出した手法である「自然実験natural experiments」を通じて、実社会における因果関係を正確に分析する因果推論の手法をマサチューセッツ工科大学教授のヨシュア・アングリストとともに確立した。とくに1994年のアングリストとの共同論文では、局所的平均処置効果(LATE(レイトゥ):Local Average Treatment Effect)というモデルに基づく操作変数法を導入し、ある処置(政策的介入など)の影響が人によって異なる場合でも、結果に及ぼす平均的効果を推定することを可能にした。また、処置があった時となかった時(反実仮想)、つまり実際の観察値と反実仮想に基づく潜在的結果を比較する「ルービンの因果推論モデルRubin causal model」を導入し、経済学での実証研究の手法を塗り替えた。多くの学者が操作変数法を使って「教育期間が長いほど将来収入は増える」「医療保険は健康と精神状態に好影響を与える」「従軍経験は所得を低下させる」といった因果関係を次々に導き出し、世界で証拠(ビッグデータ)に基づく政策立案(EBPM:Evidence-Based Policy Making)の流れが生み出された。

 2021年、実社会の処置と結果(経済効果など)の因果関係を分析する洗練された「因果推論causal inference」の手法を確立した功績で、アングリストとノーベル経済学賞を共同受賞した。なお、D・カードとの同時受賞であった。

[矢野 武 2022年3月23日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例