翻訳|nationality
国家の構成員であることを示す資格。
国籍をいかなる者に与えるかは各国の主権に深く関係する問題であって、国内管轄事項とされる。したがって、各国は、国家形成の歴史を背景としつつ、人口政策、移民政策、同化政策などの観点から、それぞれの国籍法を制定している。各国の国籍法を比較すると、出生による国籍取得に関して、血統主義と(出)生地主義のいずれを原則とするかによって大きく分けることができる。血統主義とは、旧大陸の諸国で採用されているものであり、親がその国の国民である場合には子もその国の国民とするという原則である。日本も血統主義を採用している。これに対して、生地主義とは、新大陸の諸国で採用されているものであり、その領域内で生まれた子はすべてその国の国民とするという原則である。新大陸諸国(南北アメリカ大陸)は、移民の受入国として国家が形成されていったため、血統主義によったのでは、帰化しない限り移民の子孫は外国国籍のままになってしまうので、少なくとも2世以下の世代については自国で生まれたという事実によって自国民となるという生地主義が採用されている。ただ、いずれの立法原則も例外を認めている。すなわち、血統主義をとる国でも、親が知れない子は自国領域内で生まれたことによって自国国籍を与え、生地主義をとる国でも、自国民が外国で産んだ子に対しても一定の要件のもとに自国国籍を与えている。ただ、例外的な状況下では、生地主義国の国民の子であって、血統主義国で生まれた子が無国籍になってしまう場合もなくはない。
なお、血統主義には、父系優先血統主義と父母両系血統主義とがある。父系優先血統主義とは、父が自国民である場合に子を自国民とするものであり、父母両系血統主義とは、父または母のいずれかが自国民であれば、子を自国民とするものである。かつては父が家族の中心であるという観念が強く、また、社会実体としても父を中心とする家族生活が営まれている例が多かったことを反映して、多くの国が父系優先血統主義を採用していた。しかし、家族関係が多様化し、また、男女平等の観念が強くなったため、まずヨーロッパ各国で父系優先から父母両系への国籍法改正が次々と行われ、日本でも、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(女性差別撤廃条約、昭和60年条約第7号)の批准に伴い、この条約の第9条2項の「締約国は、子の国籍に関し、女子に対して男子と平等の権利を与える」との規定を実施すべく、1984年(昭和59)に国籍法が改正され(1985年施行)、父母両系血統主義に移行した。そして、その結果として多発することになる重国籍者について、国籍選択制度を導入した。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国籍法については、いくつかの基本原則がある。
まず、「国籍唯一の原則」(「国籍単一の原則」ともいう)とは、すべての個人がかならず1個の国籍を有し、かつ2個以上の国籍を有することがないようにするという原則である。無国籍の発生の防止については、「世界人権宣言」第15条1項および「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(国際人権規約B)第24条3項で、国籍を保有することが人権の一内容をなすものとされている。また、重国籍の防止についてもいくつかの条約が作成されているが、その締約国は少ない。このうち、重国籍をめぐっては、かつては国籍を有する複数の国の間で戦争が発生した場合に国家に対する忠誠義務が問題となるといった観点で議論されていたことであるが、現在では、重国籍であることは個人にとって格別の害はないので、これを放置してもかまわないのではないかとの主張もある。
19世紀前半までは、ひとたび国民となれば永久に国民であるという「忠誠非解消の原則」が広く認められていたが、その後、「国籍自由の原則」が認められるようになっている。これは、日本国憲法第22条2項のように、基本的人権の一内容として国籍離脱についての個人意思の尊重を認めるものである。しかし、徴兵制度などとの関係から国籍離脱を制限している国も少なくない。なお、日本でも、日本国籍を離脱して無国籍になる自由は認められず、外国国籍を有する場合でなければ、国籍離脱は認められない(国籍法13条1項)。なお、国籍の剥奪(はくだつ)は個人の権利を著しく害することになるので、世界人権宣言第15条2項は、「何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない」と規定している。他方、国籍の取得には各国とも一定の要件を課しており、けっして自由にいずれの国の国籍でも取得できるというわけではない。
かつては、婚姻、認知、養子縁組などの身分行為により、夫婦または親子関係が形成された者は同一国籍を有するべきであるという「家族国籍同一の原則」が一般的に妥当とされ、日本でも1899年(明治32)の旧国籍法ではこれを規定していた。現在でも、イスラム諸国の国籍法では、自国民と婚姻した外国人妻には自国国籍を自動的に与えることとされている。しかし、多くの国では、そのような身分行為によって本人の意思にかかわりなく国籍が与えられたり、剥奪されることは個人意思の尊重の思想に反するとされ、「家族国籍独立の原則」が認められている。もっとも、後述の最高裁判所の判例とこれに従ってされた日本の国籍法の改正は、日本人父による認知という身分行為により日本国籍を与えるものであり、この原則の例外を認めたことになる。なお、日本の国籍法では、一定の身分関係のある者については、本人が望めば、届出による国籍取得や簡易帰化(同法6・7・8条)を認めることによって、家族の国籍を同じくしたいという希望をかなえる途(みち)を用意している。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本国憲法第10条は、日本国民の要件は法律でこれを定めることとし、それを受けて、国籍法が制定されている。現行憲法の制定の後、1899年制定の旧国籍法は廃止され、1950年(昭和25)に現在の国籍法が制定された。その後、1984年に既述の父母両系血統主義の採用を中心とする大幅な改正がなされ、また、後述のように、日本人父に認知された子の日本国籍の取得について2008年(平成20)に改正された。
[道垣内正人 2022年4月19日]
既述の父母両系血統主義により、出生時に父または母が日本国民であるときは、子は日本国民とされる(国籍法2条1号)。この規定により、母が日本人である場合には、出生の事実により子は日本国籍を取得する。父が日本人である場合には、胎児認知をしておけば、出生時に父子関係が確定していることになるので、同じくこの規定により子は日本人となる。しかし、事情により胎児認知ができなかった場合の子の日本国籍取得をめぐる裁判の結果、一定の場合には、生後認知であっても胎児認知の場合と同様に扱われることとされた。すなわち、最高裁判所平成9年10月17日判決(民集51巻9号3925頁)は、父Aと母Bとの間の子の出生当時にはBには夫Cが存在し、Aは父としては胎児認知ができなかったために、BがCと離婚した後に遅滞なく子を認知したという事件において、このような場合には胎児認知に準じて国籍法第2条1号により子は出生により日本国籍を取得したものとするとの判断を示した。
また、生後認知については、国籍法第3条第1項(平成20年法律第88号による改正以前のもの)は、「父母の婚姻及び認知により嫡出たる身分を取得した子」は、認知をした父が子の出生時に日本国民であった場合において、その父が現に日本国民であるとき、またはその死亡時に日本国民であったときは、法務大臣への届出によって日本国籍を取得すると定めていた。しかし、この規定について最高裁判所平成20年6月4日判決(民集62巻6号1367頁)は、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した後に父から認知された子につき、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した場合に限り日本国籍の取得を認めていることにより国籍の取得に関する区別を生じさせていることは、遅くとも平成17年には憲法第14条1項に違反する状態にあったと判示した。これを受けて、国籍法第3条第1項で要件とされていた父母の婚姻という要件は削除された。もっとも、この改正により、日本国籍取得のために多発することが予想される偽装認知に対処するため、偽装の届出をした者は1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処することとした(国籍法20条)。以上のことにより、既述のように、日本では「家族国籍独立の原則」は一部修正されたことになる。
日本の国籍法は、純粋な血統主義をとった場合に生じうる無国籍者の発生を防止するため、補充的に生地主義を取り入れている。すなわち、子が日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、または国籍を有しないとき、子は日本国民とされる(国籍法2条3号)。この「父母がともに知れない」という要件の適用にあたって、日本国籍の確認を求める側がいちおうの立証をすれば、国の側でこの要件の不具備を立証しない限り、この要件の具備が認められるというのが判例である(最高裁判所平成7年1月27日判決、民集49巻1号56頁、アンデレちゃん事件)。これは、フィリピン人らしき女性が日本国内で出産し、その後、この女性が行方不明になった場合において、その子の国籍が問題となった事件である。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本国民でない者は、自由意思に基づき、法務大臣の許可を得て、日本の国籍を取得することができる(国籍法4条)。この帰化はそれを申請する要件に応じて、「普通帰化」(同法5条)、日本と一定の関係のある者についての「簡易帰化」(同法6・7・8条)、日本に特別の功労のある者についての「大帰化」(同法9条)に分けられる。普通帰化の要件は、引き続き5年以上日本に住所を有すること、18歳以上で本国法により行為能力があること、素行が善良であること、自己または生計を一にする配偶者その他の親族の資産または技能によって生計を営むことができること、無国籍であるかまたは日本国籍の取得によって外国国籍を失うべきこと、日本国憲法施行後に政府を暴力で破壊すること等を企てたり、そのような主張をする団体に加入等をしていないこと、である(同法5条)。簡易帰化は、日本国民であった者の子や日本で生まれた者であれば、居住要件は引き続き3年以上であればよいこととされる(同法6条)。また、日本国民の配偶者で引き続き3年以上日本に住所または居所を有していれば、18歳未満であっても帰化が認められる(同法7条)。大帰化については、日本に特別の功労があったことが要件とされ、法務大臣が国会の承認を得て帰化を許可することができる(同法9条)。もっとも、これまで実際の例はない。
なお、帰化はあくまでも法務大臣の裁量によるものであるので、前記の条件を具備しているからといって、権利として帰化を求めることはできない。
[道垣内正人 2022年4月19日]
日本国籍を喪失した者に対し、一定の喪失原因に基づく場合であり、かつ所定の要件を充足しているときは、法務大臣への届出によって日本の国籍を取得することができる(国籍法17条)。第一に、後述の「国籍留保」の意思表示をしなかったことにより日本の国籍を失った者(同法12条)で18歳未満のものは、日本に住所を有するときは、届出による国籍の再取得ができる(同法17条1項)。第二に、後述の「国籍選択の催告」を受け、国籍選択をしなかったことにより日本国籍を失った者は(同法15条2・3項)、外国国籍を失うべきことを条件として、国籍喪失を知ったときから1年以内に、届出による国籍の再取得ができる(同法17条2項)。これらの者は届出のときに日本国籍を取得する(同法17条3項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国籍唯一の原則を国籍立法の理想とするときは、重国籍の発生自体を防止するだけでなく、発生した重国籍を解消することも必要となる。1984年(昭和59)の国籍法改正により、出生による国籍取得につき父母両系血統主義が採用された結果、韓国人父と日本人母の間の子のように、血統主義をとる国の国籍を有する両親から生まれた子も重国籍を有することになり、急増することになる重国籍者について国籍選択制度が導入された。これによれば、外国の国籍を有する日本国民は、重国籍となった時点が18歳以前の場合は20歳に達するまでに、重国籍となった時点が18歳に達した後である場合はその時点から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない(国籍法14条1項)。これは、大人として2年間国籍選択について考える期間を与えるという趣旨である。そして外国の国籍を選択したときは、日本の国籍を失う(同法11条2項)。日本の国籍を選択するには、外国国籍の離脱をする方法と、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(選択の宣言)をする方法とが認められる(同法14条2項)。この選択の宣言という方法が認められているのは、外国の国籍法上、たとえば徴兵制度との関係から一定期間はその国の国籍の離脱が認められていない場合があるからである。したがって、選択の宣言をしても、重国籍の状態は継続することになるが、選択の宣言をした日本国民は外国の国籍の離脱に努めることが義務づけられており、自己の志望により外国の公務員に就任し、その就任が日本国籍を選択した趣旨に著しく反するときは法務大臣はその者に対して日本国籍喪失の宣言をすることができるとされている(同法16条1・2項)。さらに、この国籍選択制度を実効性あるものとするため、第14条1項に定める期限までに日本の国籍の選択をしない者に対し、法務大臣が書面により国籍の選択をすべきことを催告することができ(同法15条1項)、催告を受けた者は、催告を受けた日から原則として1か月以内に日本国籍を選択しなければ、その期間が経過したときに日本の国籍を失うこととされている(同法15条3項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
「国籍唯一の原則」から、日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは日本の国籍を失う(国籍法11条1項)。第二次世界大戦後ソ連に抑留され、同国へ帰化した元日本人について、自己の志望によるか否かが問題となり、ソ連への帰化が強迫その他やむをえない事由によるもので自由な意思に基づくものではないとして、日本国籍の保有を認め、就籍を許可した事例がある。また、既述のとおり国籍選択制度により外国国籍を選択した場合や、日本国籍を選択した趣旨に反して外国公務員の職に就任したときにも日本国籍を失う(同法11条2項)。生地主義の結果であれ、父母両系血統主義の結果であれ、出生により外国の国籍を取得した日本国民であって国外で生まれたものは、出生届とともに戸籍法の定めるところに従って、国籍留保の意思表示をしなければ(戸籍法104条)、その出生時にさかのぼって日本国籍を失う(国籍法12条)。ただし、既述のように、国籍の再取得の途(みち)が用意されている(同法17条1項)。さらに、外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を離脱することができる(同法13条1項)。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国籍法による日本国籍の得喪のほか、領土の変更などに伴い、国際法によって国籍の変動が生じる場合がある。明治以後の日本では、樺太(からふと)、台湾、朝鮮の併合に際し、一定範囲の者が、日本の国籍を取得した。また、第二次世界大戦後の平和条約(対日講和条約)締結に伴って一定範囲の者が日本国籍を喪失した。後者については、終戦から平和条約締結までに7年もの年月を要し、その間に多くの身分変動が生じたにもかかわらず、条約上は国籍に関する規定が設けられなかったので、国籍変動が生ずる者の範囲について解釈が分かれ、多数の裁判が行われた。判例によれば、平和条約発効時までに朝鮮・台湾の戸籍に入籍すべき事由の生じた者は日本国籍を喪失するとされている。
[道垣内正人 2022年4月19日]
国籍は人を特定の国家に属せしめる法律的紐帯である。人は国籍によって特定の国家に属し,その国家の構成員となる。すなわち,ある国の国籍をもつ者がその国の国民である。特定の国籍をもつ国民に対立する概念は外国人である。外国人とはある国にとり,自国の国籍をもたない者であって,無国籍者をも外国人というのが一般的である。上述の意味における国籍の概念は,封建制度が崩壊し近代国家が成立するにつれてしだいに構成されたもので,18世紀末から19世紀初めにかけてようやく確立したといわれている。日本でこのような国籍の概念が生まれたのは明治の開国とともにであり,1873年公布の太政官布告〈外国人民ト婚姻差許条規〉,90年公布の民法(未施行)人事編(第2章〈国民分限〉)を経て,同年公布の憲法18条に基づき99年に至り単行の立法として国籍法が制定されるに至った。なお,ときとして法人や船舶や航空機についても特定の国家との関係を示す規準として法人(船舶,航空機)の国籍のように国籍の用語が使われることがあるが,本来,国籍という概念は自然人に関するものであり,こうした用法における国籍は本来の意味のものではない。
国籍は人に対し法律上の権利義務を生ぜしめるが,これは国籍のもつ効果であって,国籍の概念とは異なる。現在,多くの先進国は外国人にきわめて広範な権利の享有を認め,内外人の平等主義を採用している(民法2条参照)。しかし平等主義といっても無制限なものではなく,原則として内外人を平等に取り扱うというにとどまり,外国人に対しては権利義務の享有負担の面で自国国民との間に若干の差別を設けているのがふつうである。
いかなる人をその国の国民とするかは,国家成立の歴史的背景(民俗,宗教,政治,経済など)に由来するその国家の基本的性格や指導理念を基礎とし,人口問題,国防上の要求などの政策目的をも考慮して決定される。したがって,国籍の得喪に関する超国家的普遍原則は存しない。このため国籍の得喪に関する事項は,国際法上,国内管轄事項または国内問題といわれ,〈何人が自国民であるかを自国の法令によって決定することは,各国の権限に属する〉(国籍法の抵触に関する若干の問題に関する条約1条)ものであり,〈個人がある国の国籍を有するかどうかに関するすべての問題は,その国の法令に従って決定する〉(同条約2条)ものとされている。日本では,憲法10条に〈日本国民たるの要件は,法律でこれを定める〉とし,国籍法でその要件を具体的に定めている。ただし例外的に,2国間条約,多数国間条約などの国際的合意により,国籍の得喪について定められる場合がある。
国籍立法の理想として〈国籍唯一の原則〉と〈国籍自由の原則〉とがあげられる。国籍唯一の原則とは,理想として人は必ず一つの国籍をもち,かつ唯一の国籍をもつべきであるということである。国籍の得喪に関する各国の原則が異なる結果,一人で複数の国籍をもつ場合(重国籍,ほとんどの場合二重国籍)またはいずれの国籍をももたない場合(無国籍)が生ずる。しかしこのような国籍の抵触は不都合な結果をもたらすので,できるだけこれを避けるべきであると従来考えられている。国籍自由の原則とは,国籍の得喪に関してなるべく個人の意思を尊重すべきであるとすることである。かつては〈ひとたび臣民たれば永久に臣民たりOnce a subject,always a subject.〉という忠誠非解消の原則を採る国が多かったが,今日,多くの先進国では個人の自由意思を認め,国籍を強制しないものとしている。世界人権宣言がこの理想を宣明しており(15条2項),日本国憲法も国籍離脱の自由を認めている(22条2項)。
国籍の得喪に関する原則は,原則としてそれぞれの国の成文または不文の国内法によって定められる。日本の国籍の得喪に関する一般的な国内立法で初めて実施されたのは,先に述べたごとく1899年公布の旧国籍法であるが,第2次大戦後の憲法および民法の改正に対応して1950年に全面的な改正がなされ,国籍法が新たに公布された。ところが最近に至り,国籍に関する国際事情の変化に対処するため,ならびに日本が80年7月に署名した〈女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約〉(女子差別撤廃条約)を批准するために,国籍法の改正の必要に迫られ,81年法制審議会に国籍法部会が設置され,同法律案は,法制審議会の審議・決定を経て,国会に提出,可決され,戸籍法と併せて〈国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律〉として84年5月に公布され,85年1月から施行されるに至った。かなり大幅な改正であり,国籍法は面目を一新するに至った。以下,この改正を経た現行国籍法について述べることにする。
(1)出生による国籍の取得 血統主義(出生の際に親の血統に従って子に親と同じ国籍を取得せしめる主義),生地主義(出生の際に子に出生地国の国籍を取得せしめる主義)とがある。ただし今日では,世界的にこれら二つの主義を折衷的に併用する立法がほとんどである。日本の国籍法は,血統主義を採用しているが,従来の父系優先血統主義を父母両系血統主義に改めた。近年における世界各国の国籍立法の動向ならびに憲法における両性平等の原則を考慮したものである。生地主義による国籍の取得も例外的に認められている。すなわち,子は,(a)出生の時に父又は母が日本国民であるとき,(b)出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき,(c)日本で生まれた場合において,父母がともに知れないとき,又は国籍を有しないときに限り,日本国籍を取得するものとしている(2条)。
(2)帰化による国籍の取得 一般には一定期間の居住その他,法定の条件を備えた外国人の志望に基づいて,国家がこれに国籍を付与することを帰化というが,日本の国籍法も帰化を認め,その条件について規定している。帰化は,その条件の寛厳の差異により,普通帰化と特別帰化に区別される。前者は,一般の外国人が具備すべき帰化の条件が問題となる普通の場合の帰化であり,後者のうち,日本となんらかの特別の関係にある外国人につき,帰化の条件が緩和され,または,その一部が免除される場合の帰化は簡易帰化といわれ,日本に特別の功労のある外国人につき,帰化の条件がすべて免除される場合の帰化は,大帰化といわれる。新しい現行国籍法は,日本国民の配偶者の帰化条件に関し,居住条件の男女差異を解消するとともに婚姻期間をも条件として考慮するものとした(7条)。また,帰化に関し,生計条件の定めを整備し(5条1項4号),重国籍防止条件(5条1項5号)について特例を設けるとともに(5条2項),日本で生まれた無国籍者の帰化条件について新たに定めた(8条4号)。
(3)親族法上の原因に基づく国籍の取得 婚姻により妻が夫の国籍を取得し,また婚姻中における夫の国籍変更が妻の国籍に影響を及ぼし,認知により子が親の国籍を取得し,養子縁組により養子が養親の国籍を取得し,また子の国籍が親の国籍変更に従うなど,一定の条件の下に,親族法上の原因に基づく国籍の取得を認める立法例が世界的にはかなり多い。この場合には婚姻と妻の国籍との関係がとくに問題になる。これについては,従来妻の国籍は夫の国籍に従うとする夫婦国籍同一主義が広く認められていたが,近年は両性平等の見地から,婚姻は当然には妻の国籍に影響を与えることなく,夫と妻とが独自に国籍を保有できるとする夫婦国籍独立主義がむしろ優勢になった。日本の旧国籍法は,広く親族法上の原因に基づく国籍取得の制度を認めていたが(旧国籍法5条1号~4号,13条,15条,27条),1950年公布の国籍法ではまったく認めず,現行国籍法でも同様である。
なお現行国籍法では,婚姻や養子縁組の場合と区別して,準正(〈嫡出子〉の項目を参照)により嫡出子たる身分を取得した者は,所定の条件の下に,帰化手続によらず法務大臣に届け出ることにより,日本の国籍を取得することができるものとしている(3条)。これは,法定の要件を具備する者の意思表示のみによって国籍の取得を認めるものであり,親族法上の原因に基づく国籍の取得とは異なる新しい国籍取得制度である。
古くは刑罰による国籍の剝奪,および領土の併合,割譲その他の国際法上の原因に基づくもの以外には,いったん取得した国籍を喪失することがなかった。しかしその後,国籍の得喪について個人の自由を認めるべきであるとする思想などにより,国籍喪失が世界各国の国籍立法上認められるに至った。
(1)自己の志望による外国国籍の取得に基づく国籍の喪失 主として帰化による場合であるが,国籍の回復,国籍の選択,単なる意思表示または登録による外国国籍の取得の場合も含まれる。外国の国籍を取得した場合には,それに基づいて自国国籍を喪失させるのは,個人の自由意思を尊重する〈国籍自由の原則〉と二重国籍の発生を避けようとする〈国籍唯一の原則〉の現れである。現行国籍法もこの制度を認めている(11条)。
(2)国籍不留保による国籍の喪失 現行国籍法は,出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは,戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ,その出生のときにさかのぼって日本の国籍を失う,と定めた(12条)。これは,国籍の留保制度と呼ばれるものであるが,従来よりもその適用範囲を拡大し,生地主義国で生まれた者のみならず,出生により外国の国籍を取得した日本国民で外国で生まれた者すべてに及ぶものとした。二重国籍の解決を目的とする,国籍の喪失の一つの場合であるということができる。なお,留保の意思を表示しないことにより日本の国籍を失った20歳未満の者で日本に住所を有するものについては届出により再取得を認めるものとしている(17条1項)。
(3)国籍離脱による国籍の喪失 人が有する一国の国籍を脱することである。フランス法の国籍の放棄,イギリス法の外国人宣言,ドイツ法の脱籍などもその一態様であるが,いずれも本人の希望に基づく国籍の喪失の場合である。日本の現行国籍法上の国籍の離脱も,本人の希望に基づき日本国籍を脱することであり,原因のいかんを問わず,外国の国籍を有する日本国民は,法務大臣に対する届出によって日本の国籍を離脱できるものとされている(13条)。
(4)親族法上の原因に基づく国籍の喪失 国籍の取得の場合と同様に,親族法上の原因に基づく国籍の喪失を認める立法例がかなり多い。日本の旧国籍法(1899公布)も一定条件下でこれを認めていたが(18~23条),現行国籍法は認めていない。
現行国籍法は,父母両系血統主義の採用などにより増大する重国籍の解消策として,新しい国籍の選択制度を定めた。日本国籍の保有を希望する重国籍者には,その出生地や居住地の内外を区別することなく,まず一定の期限内に日本の国籍を選択し外国の国籍を放棄する旨の宣言を求め,その期限内に日本の国籍を選択しない者に対しては催告し,催告に応じないときは日本の国籍を喪失するとするものである(14~15条)。そして,日本の国籍の選択の宣言をした日本国民は外国の国籍の離脱に努めなければならないものとし,上の宣言をした日本国民でなお外国の国籍を有するものが,選択の宣言に著しく違背する行為をしたときには,一定の手続の下に日本の国籍を喪失するものとしている(16条)。現行国籍法は,このような国籍の選択制度とともに,先に述べた国籍の留保制度を重国籍解消のための制度として採用することとしたのである。
国籍の得喪は,国内立法による場合のほか,国際条約などによって定められる場合がある。これにはまず,国籍の抵触を避ける目的から1930年ハーグの国際法典会議で成立した〈国籍法の抵触に関する若干の問題に関する条約〉ならびに(1)〈二重国籍のある場合における軍事的義務に関する議定書〉,(2)〈無国籍のある場合に関する議定書〉および(3)〈無国籍に関する特別議定書〉がある。日本は,上の条約ならびに(2)の議定書に署名してはいるが,批准してはいない。このほかにも国際連合などによる種々の条約,議定書があるが,日本が加入しているものはない。国籍の抵触解決のための2国間条約もあるが,日本が締結しているこの種の条約はない。
次に,領土の帰属関係に変更の生じた場合,すなわち主として戦争の結果,国家の独立・併合,領土の割譲などの生じた場合に,それに伴って一定の者の国籍の変動が生ずるのが原則である。このような場合における国籍の得喪については,国際法上確立された一般原則は存在しない。これは各場合における条約(条約のうちにこれに関する明文の規定のないときは条約の趣旨)によって決定されるべき問題である。この点に関する先例ははなはだ多く,その内容も多岐にわたっているが,最近では国籍選択制度の認められる場合が多い。国籍選択制度には,二つの基本的な型がある。すなわち領土の帰属の変更によって,当然に譲受国の国籍を取得する譲渡国の国民に,その従前の国籍を回復せしめるものと,当然には譲渡国の国籍を喪失せずその希望によって譲受国の国籍を取得させるものとである。いずれにしても,この制度は国籍自由の原則の一つの現れであり,国籍立法における民主化を示すものである。第2次大戦の結果,日本から朝鮮が独立し,また日本は台湾の領有権を失ったが,この場合には国籍の選択制度は採られなかった。なお,第2次大戦後の非植民地化に伴う国籍変更については,国籍選択によってではなく,民族自決の枠組みによって解決されるべきである,との見解もある。
執筆者:山田 鐐一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(宮崎繁樹 明治大学名誉教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…民法728条,戸籍法96条),復氏を欲する場合も戸籍への届出を要する(民法751条,戸籍法95条)。離婚【泉 久雄】
【国際的な婚姻】
国籍の違う男女の婚姻(いわゆる国際結婚)や同じ国の国籍をもつ男女の婚姻でもその婚姻の挙行地や婚姻生活の場所が本国以外の国にある婚姻を国際的な婚姻,または,渉外的な婚姻(渉外婚姻)という。このような婚姻については,その成立や効力がどの国の法によって規律されるかという国際私法上の問題が発生する。…
…同一の人が複数の国籍をもつこと。国籍の決定は国際法上原則として国内管轄事項とされ,各国の国籍法の規定が異なる結果,国籍の抵触が発生する。…
※「国籍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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