改訂新版 世界大百科事典 「エジプトピテクス」の意味・わかりやすい解説
エジプトピテクス
Aegyptopithecus
エジプト,カイロ郊外にあるファイユーム盆地から発見された3500万~3300万年前(漸新世初期)の化石霊長類。E.サイモンズらのイェール大学調査隊によって1964年に発見され,翌年記載された。ファイユームからは多くの種類の霊長類が発見されているが,エジプトピテクスは現生の旧世界ザル,類人猿,ヒトを含む狭鼻下目に分類され,これらの共通祖先に近縁と考えられている。小臼歯の数は2本で,現生狭鼻猿と同じだが,現生狭鼻猿類が共通してもつ外耳の特徴を欠く。歯と顎の特徴から,記載時点では類人猿とされた。当時,類人猿の歯や顎には原始的な狭鼻猿の特徴が多く維持されていることが知られていなかったためである。歯や顎の大きさなどに性差が大きく,群れで暮らしていたと考えられる。脳容量は現生原猿程度であり,この点は,漸新世初期以後に狭鼻猿と広鼻猿の系統で独立して大脳化が起きたことを示唆する。四肢骨はがんじょうなつくりで,発達した母趾対向性をもち,現生のホエザルが行うような慎重な樹上四足運動を行っていたと考えられる。歯の形態は,葉と果実を中心とした食性だったことを示している。
執筆者:中務 真人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報