改訂新版 世界大百科事典 「カドゥケウス」の意味・わかりやすい解説
カドゥケウス
caduceus[ラテン]
聖なる力を伝える者が携える呪力を持った杖(つえ)。ギリシア語のカリュクスkaryx(〈伝令〉の意)から派生した語と思われ,王権の表象である笏杖(しやくじよう)のように,所持者を守る力がある。本来の形は先端から2本の小枝がのびて本体にからんでいる木の枝で,水脈を探すための占い棒に近い形であったらしいが,後に2匹の蛇が棒をはいあがる形となった。蛇は大地の力をあらわすものと考えられ,ギリシアの医神アスクレピオスは大地的治癒力を伝える蛇のからんだ杖を持っていた。最もよく知られているカドゥケウスは,ヘルメス神の持物で,ヘルメスはこの杖を印として冥界・地上界・天界の間を往復し,神々の相互の意思や,とくにゼウスの命令を伝える伝令の役割を果たした。後にヘルメスがエジプトの神トートと習合して錬金術の神ヘルメス・トリスメギストスとなると,この杖は天と地,太陽と月,男性と女性,硫黄と水銀などの対立物を統合して,完全な金属である黄金を作る超越的な力の象徴ともなっていた。
執筆者:秋山 さと子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報